コラム

(69)IS IT BEST TO NOT ATTEND COLLEGE?

 マーティ・キーナート


私はこちらのコラムで度々、世界の篤志家達が彼らの望む大学や教育機関へ行う桁違いに寛大な寄附の事をお話ししてきました。経済的に恵まれない学生が希望の大学へ進学出来るように巨額の奨学金基金を設立したり、彼らが学生ローンの返済で社会に出たあとに苦しむことのないように、学生ローンを肩代わりする篤志家の話もしてきました。

しかしながら、学生が大学に行かなくてもいいようなかなり珍しいケースで基金を設立した篤志家がいることをご存じですか?米国で有名な投資家でもあるPeter Theil(ピーター・ティール)氏がその人です。

1967年に彼はドイツで生まれ、その後両親とともに米国に移住しアメリカ人となりました。彼は非常によく出来た学生で特に理数学に長けていました。そしてスタンフォード大学に入学し、哲学を専攻。さらに1992年には同じくスタンフォード大学で法学位も取得します。

卒業後、弁護士と証券トレーダーとして働いた後、1996年には自らの投資会社を立ち上げます。そしてその会社が最初に行った大きな投資先が、1998年設立のPayPal(ペイパル)です。彼のPayPalへの最初の投資額は、50万ドル(当時約6,000万円)ほどでしたが、その後2002年にPayPalを約150億円以上でeBAY(イーベイ)に売却しました。その後も彼は、2004年にFacebook (フェイスブック)の最初の外部の投資家として10.2%の株を取得し、2012年には100億円以上でそのほとんどの株を売却しています。

2010年9月、ティールは、Thiel Fellowship (ティールフェローシップ)という、基金を立ち上げました。それは、大学に行かないもしくは大学を中途退学し、ベンチャービジネスを立ち上げたいという23歳以下の若者に、年間10万ドルから20万ドルの奨学金を2年間与えるというものです。ティール氏曰く、多くの若者にとって大学とは、彼らが何をしたらいいかまだわからない時期の1つの選択肢に過ぎないといいます。
「個人的に私は少しだけ過去を後悔している。自分の人生をどうしていいかわからないときにとりあえず大学にいってしまった。そしてその大学の学位をどう使えば良いかわからなかったのでとりあえず大学院へ行った。私の場合それは法律学位であったけれども、それは誰もが何をしていいかわからない時にとる典型的な進路の1つだった。大きな後悔ではないけれども、もしもう一度繰り返すとするなら、あの頃よりももっと将来の事を一生懸命に考えるだろう」と。
また彼はこうも言っています。
「大学は、過去に行われた事を学ぶにはいいところであるが、新しいことを創造するのを抑止する時もある。我々は若者が伝統的な道を歩む代わりに、彼ら自身の道を見つける手助けをしたいと思う」
The Thiel Fellowship home page (https://thielfellowship.org/)

2011年以来、Thiel Fellowship は、226人のプログラム修了者を輩出し、そのスタートアップ起業の価値は 合計で220億ドルをこえているとのことです。
ティール氏の信念とフェローシップ基金の事を読み、計らずしも私も大学に行くだけが全ての人に必要なわけではないと考えるようになりました。あなたはどう考えますか?



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。2018年よりプロバスケットボールチーム「仙台89ERS(エイティナイナーズ)」のオーナー代行兼シニアGM就任。   

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