コラム

(68)Appare Mr. Takizaki!

 マーティ・キーナート


最近、私はフォーブスマガジンの中に気になる記事を見つけました。
“Asia’s Heroes of Philanthropy.” 「アジアの慈善のヒーロー達」という特集記事で、アジアで最も慈善活動に熱心であるとされる個人、もしくはパートナーを取り上げていました。香港、インド、フィリピン、韓国からは各2名選ばれており、またオーストラリア、中国、日本、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナムからは各1名の名前がヒーローとして挙がっていました。

私は、彼らそれぞれの素晴らしい経歴に目を通し、中でもベトナムで最も裕福と言われているPham Nhat Vuong氏の寄附実績のスケールの大きさに感銘を受けました。彼は、2020年のパンデミック以降、3億2,000万ドル(約481億円)近くを国立ワクチン基金に寄附し、そのおかげで400万個ものコロナワクチンと3,300万個の抗体検査キットを購入することができたそうです。彼が経営するグループ企業は、それぞれ数百万ドルの寄附を30以上の基金に支援し続けています。その内容は、奨学金から災害救援金、ベトナムの2,000人以上の孤児救済など多岐に渡っています。

Vuong氏は一代で財を成した企業家です。若い頃ロシアで勉強し、インスタント麺の製造販売をウクライナで起業。1990年代にベトナムに帰国してからは事業を拡大し、彼のグループ企業は、不動産売買のVinHomesをはじめ、スマートフォン製造のVinSmart、電気自動車を製造するVinFastなど、多くの事業を展開しています。最近では、ノースカロライナに米国市場向けの大きな電気自動車の工場を建設中とのことです。

さて、このヒーローズリストに日本人で唯一ノミネートされていたのは誰でしょうか?それは滝崎 武光(タキザキタケミツ)氏です。滝崎氏を知らない方もいるかもしれませんが、彼は日本が誇る精密機器会社のキーエンスソフトウェア株式会社の創業者であり、現名誉会長です。

2022年、滝崎氏は保有するキーエンス社の株745万株、時価総額およそ3,900億円をキーエンス財団に寄附しました。キーエンス財団は、2018年に設立され、大学生へ奨学金を支援しています。この奨学金は、年間約500人の日本に住む日本人と外国人学生に、毎月約8万円を大学在籍中4年間支給されるものです。奨学生は、学業成績と志望動機、そして家庭の経済事情によって選抜されています。
滝崎氏はこの財団設立について、「優秀でやる気のある高校生が大学進学を如何なる経済的な理由があっても諦めることのないように、そして、卒業生にとって学生ローンの返済が卒業後の人生の負担にならないように手助けするため」と述べています。

フォーブス誌によると滝崎氏は日本の資産家トップ50人のうち、第2位になっています。第1位は、ユニクロの柳井正氏です。柳井氏も柳井正財団の設立者として有名です。

フォーブス誌が、なぜ滝崎氏をこのヒーローズリストに選んだのかは不明ですが、日本のトップの資産家がこのように、築いた資産を未来を担う日本の若者達に還元しているのは素晴らしいことです。

私は、大きな「あっぱれ!」を滝崎氏に送りたいと思います。多くの日本の資産家が彼の後に続きますように。
Forbes Japan’s 50 Richest リスト
https://www.forbes.com/lists/japan-billionaires/?sh=104e6b1ef987



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。2018年よりプロバスケットボールチーム「仙台89ERS(エイティナイナーズ)」のオーナー代行兼シニアGM就任。   

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