コラム

(3)奨学金の意味

 マーティ・キーナート


昨年チャリティと博愛精神が伝統的に根付いているアメリカでも、とりわけ巨額の寄附の話題が世間を騒がせました。フォーブスマガジンによると、一個人からとしては最も巨額の46億ドル=約5000億円が寄附されたのです。マイクロソフト社の有名な創業者ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ夫妻から自身の財団に宛てた寄附でした。この財団は、世界中の多くの組織や団体に多くの寄附をしています。彼らのゴールの1つは、「多くの子供達と若者が生き延びて元気に成長できること」、また「貧困による伝染病」と闘うことも彼らの使命の1つとしています。この驚くべき慈愛精神に溢れたカップルは、自分達が生きているうちに個人の富の90%以上を寄附すると約束しているのです。


素晴らしいとしかいいようがありません。しかしながら同じ頃私が驚いた大変大きな「ギフト」の話題が更に私の目を引いたのです。何故ならば、その寄附は一介の秘書であった、しかも誰も彼女が裕福だと思ってもいなかったお婆さんからの寄附の話だったからです。このお婆さんは、シルビア・ブルームというニューヨークの法律事務所に67年間務めあげた女性でした。彼女は上司がする事を横目で見つつ、特に上司が株を購入する時に抜け目なく上司が購入する株と同じ株を、自分のお金を使って密かに購入していたのです。彼女が96歳(!)で現役を引退しその後しばらくして亡くなった際、彼女の資産は、3つの証券会社と11の銀行に合わせて約10億円以上にもなっていました。彼女の家族や親しい友人でさえ、彼女がそんな大金を持っていたことを微塵も気がついてはいませんでした。彼女の暮らしはつつましく小さなアパートに住み、地下鉄で仕事に毎日通っていました。


遺言により、彼女は友人と家族に多少のお金を残しましたが、残りの金額の約9億円をヘンリーストリートセトルメントというチャリティ団体に全額寄附しました。この団体は毎年6万人以上の援助を必要とするニューヨーカーに様々な社会福祉事業や健康制度、芸術や教育を支援する「奨学金」を与えています。

                

ブルームおばあさんの話を聞いて、私は以前読んだウィスコンシン州の男性の話を思い出しました。彼は2015年に90歳で亡くなった際、約14億3千万円もの遺産を残し、それを全て自分が卒業したカソリック高校に寄附したのでした。彼の名前は、レオナルド・ジゴウスキー、第二次世界大戦の際に海軍のコックとして働き、戦後はスーパーの肉切りの仕事を始め長年働いた後スーパーの株を少しづつ買い始め、そして買い集めた株を売りその資金で賢く投資をし始めました。彼はウィスコンシン州ニューベルリンの街角の小さな小売店を買い上げ同じ区画にあるナイトクラブやダンススタジオを買い占めていきました。

                

レオナルドは結婚しなかったので、質素な生活を続け彼の唯一の社交の場所は自分が所有するナイトクラブやダンススタジオで時折社交ダンスを踊ることぐらいでした。お金を無駄には使わずバケーションにいく事もありませんでした。お金を貯めるのが生きがいであると口外して憚らずそして惜しみなく彼よりも援助を必要とする人々に分け与えていました。彼の母校に寄附された14億円以上の寄附金は学校の基金として利子を生み、この基金が永遠に存続されるように、毎年そのたったの5%(約5500万円)のみを使っているそうです。この学校ではこの利子を使い去年まで131名の学生に奨学金を与えることが出来ました。年間約118万円かかる学費の半分もしくは1/3が、個々の事情に応じて「奨学金」として付与されています。

                

このようにアメリカでは、学生への「奨学金」は寄附金の行き先として真っ先に挙げられる基金の1つであります。子供達/学生の未来に投資する事はその国の未来に投資する事でもあるからです。

                

最後にこの「奨学金」の意味について。日本ではしばしば「Scholarship」の事を称して「奨学金」と訳されますが、本来の「奨学金」とは返済不要のお金のことをいいます。日本では学生へ与えられるお金で後に返済が必要な貸与金の事も「○○奨学金」と呼ばれる事が多いようですが、それは奨学金ではなくあくまで「学生ローン」なのです。                

               

ブルーム夫人やジゴウスキー氏が残したお金は本当の意味での「奨学金」になりました。返済不要だったからです。これぞ本来の意味での未来への投資、そして慈善事業と言えるでしょう。

               

東北大学でも、皆様の支援で世界を改革するより多くの技術革新を産み出す事が出来ます。皆様の支援に常に感謝します。

               

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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。日米両国においてビジネス、プレイヤー双方の実経験から、日米比較や日本の教育システムにさまざまな問題提起を意見。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/2005年より東北大学特任教授。      

                

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