コラム

(54)LESSONS FROM ANONYMOUS GIVING

 マーティ・キーナート


大抵のアメリカの大学では、寄附者は自分の名前をそのビルディングやどこかに刻みたがるものです。
私の母校のスタンフォード大学でもそれは例外ではありません。38,000点もの美術品を所蔵する大学の美術館は、”Cantor Arts Center(カンターアートセンター)”と名付けられており、アイリス&ジェラルド・カンターという多額の寄附者の名前をとっています。立派なコンサートホールは、”Bing Concert Hall(ビングコンサートホール)”という名称ですが、これも高額寄附者夫妻のピーター&ヘレン・ビングの名前が付けられています。またスタンフォード大学の歴史上、一番の高額寄附者であるジョン・アリラガは、総額でおよそ1,500億円以上を寄附していますので、彼の名前は、有名な新しいフットボール場をはじめとし、広大なキャンパス内の彼方此方で目にする事ができます。

このように寄附者の名前を大々的に宣伝するという事は、アメリカでは普通のことです。ですから、最近カンザスの小さな地方大学であるMcPherson College(マクファーソンカレッジ)へ、約750億円にものぼる巨額の寄附が匿名で行われたというニュースは私の目を引きました。この匿名の寄附者はさらに、他者から2ドルの寄附が行われる毎に自分の寄附金額を水増ししていくと発表しました。そうすることによりさらに多くの寄附金がこの小さな大学に集まることになると期待したからです。大学は2023年6月30日までの期間で大々的な寄附金を募るキャンペーンを実施していますが、すでに目標を大幅に上回る額の寄附金が外部からも続々と集まっているというのです。

大学が寄附金キャンペーンを始めてすぐに目標額に達しましたが、高額寄附者の数人は、この名も無い地方の大学の卒業生でもありました。この卒業生の寄附者達は特に匿名ではありませんでしたが、最初の匿名の大寄附者が誰であるかはわかっていると話しています。
さらに卒業生達は、今回の寄附の理由をこのように語っています。
「私たちは、この小さなリベラルアーツ大学にとても感謝しています。1クラス35人ほどのこの大学は、パーソナルで家族的な雰囲気でありました。教授達は熱心に私達を指導してくれました。今、全米でもこのような小さなリベラルアーツの大学は、資金不足による経営難に陥っています。しかしながら、このような大学こそが我が国の教育を底から支えていることを忘れてはならないのです。誰もがスタンフォードやハーバードに行くわけではないのですから。
我が校の卒業生は、多岐に渡る進路に進んでいます。大学の教授や他の学生と親密な関係を保ちながら、自分の世界を作って行くことができるからです。それがユニークで多彩な創造性や発明を産み出しているのです」と。

母校を想う形がこのように未来の若者のためになるのは素晴らしいことですね。
それが匿名でも匿名でなくても。



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。2018年よりプロバスケットボールチーム「仙台89ERS(エイティナイナーズ)」のオーナー代行兼シニアGM就任。   

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