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(58)Where is Japan’s Bloomberg?

 マーティ・キーナート


私は嫌煙家です。幸いにも若い頃から一度も煙草を吸いたいと思ったことはありませんでしたし、もちろん一度も口にしたこともありません。両親も吸わなかったし、周りに誰も吸う人がいなかった事も要因の1つかもしれません。

私はロサンゼルスのルーサランハイスクールという小さな高校に通っていました。小さい学校でしたが、その年の私の学年には非常に優れた運動選手たちが多くいました。そのためサッカー、バスケットボール、野球の3つのメジャースポーツでは南カルフォルニア大会を勝ち抜き優勝もしています。私は高校で野球チームに所属しキャッチャーでした。高校3年生の時には、24試合負けなしの成績で南カリフォルニア大会の決勝まで勝ち進んでいましたが、この決勝戦を目前にして、我々のスター選手だったショートストップのチームメイトが、喫煙したのを監督に見つかり退部になったのです。しかし、このスター選手が不在だったにも関わらず、我々は優勝しました。全校が喜びに湧きましたが、このスター選手の名前は、優勝トロフィーから外されていました。私は今でも彼にはかわいそうな事だったと感じていますが、若い私には鮮明な教訓になりました。

嫌煙者の私には他にも忘れられない強烈な出来事がありま。働き始めの若い頃、私はカリフォルニアのバンアイズという街にあるイースタンアルミニウム社を訪れました。ジム・イースタン社長とともに朝食をとった後、私たちは工場に向かいました。イースタン社は有名なアルミのベースボールバットを製造する会社です。駐車場に到着した時、赤い服をきたひとりの社員がものかげで煙草を吸っているのを見かけました。彼女は、ジム社長の車を見るや否やすぐにビルの中に入りました。多分、見られなかった事を祈っていたことでしょう。

けれども、ジム社長は彼女を見ていたのです。彼はオフィスに着くとすぐ人事部長を呼びつけ、その喫煙していた女性を探して解雇するように伝えました。その当時では珍しく、彼の会社ではとても厳しい禁煙の規則があったのです。人事部長はすぐに女性を探しに行きましたが、5分して戻ってくるとこう報告しました。「女性は先週雇ったばかりで、我々のミスでまだ我が社の禁煙のルールの契約書にサインしていませんでした。なので解雇すると訴えられます」と。すると苛立ったジム社長は、「選択肢は2つ、彼女を解雇するか、さもなければお前が首だ!」と告げたのです。

このように煙草を非常に忌み嫌い、煙草撲滅のために熱心な活動をしている人々は世界に多くいます。中でも有名なのは、ニューヨークの前市長であったブルームバーグ氏でしょう。フォーブス誌によると、彼は世界で7番目の資産家で、その資産総額は約13兆3,830万円に上るとされています。

そのブルームバーグ氏が支援する多くの慈善事業の中でも、彼が最も力を注いでいるのは煙草撲滅です。 この2月には、その活動にさらに562億円を寄附し2005年からこれまでに総額2,115億円を注いでいます。

ブルームバーグ氏の煙草撲滅運動は成功しており、ニューヨーク市全体の喫煙率は、21.5%から13.9%に減ったとされています。また2005年から比べるとその平均寿命は3年伸びました。しかしながら、ブルームバーグ氏は、中国やインドなど煙草の健康被害の知識が低い地域における問題は、さらに大きいと訴えています。それらの地域を合わせると世界の40%の喫煙者がいる事になっています。ブルームバーグ氏は、これらの地域でこそ、禁煙エリアを拡大し、煙草の広告を制限し、煙草の税金をあげ、煙草の害についての大きな広告を至るところに掲げるなど公共の注意喚起キャンペーンが必要であるとしています。

長年の運動が功を奏し、ブルームバーグ氏は世界の喫煙率は22.7%から17.5%まで下がったと報告しています。また、2012年と比較すると2021年の世界における煙草の売り上げは7,500億本減ったとしています。 しかしながらブルームバーグ氏は、まだまだ運動を続けるべきであると日々活動を続けています。なぜなら、人類の死因の10のうちの1つは必ず喫煙が関連しており、そして防げる病の原因には必ず喫煙が関係していると。

私が1960年代に初めて日本に来た頃に比べると、喜ばしいことに日本の喫煙者は非常に減りました。しかしながら日本の喫煙率は18%と先進国の中ではまだまだ高いものです。JT(日本たばこ産業)は、未だ日本政府が 33.35%の株を所有する半官半民の会社です。 日本にもブルームバーグ氏のような人が必要かもしれません。
喫煙者の方は、まずは禁煙することから始めてはどうでしょうか?
自分で禁煙することで寄附付ができるこのようなサイトもあります。

https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/410977.html



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。2018年よりプロバスケットボールチーム「仙台89ERS(エイティナイナーズ)」のオーナー代行兼シニアGM就任。   

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