コラム

(1)世界に広がる「与える」という文化~ The Giving Pledge ~

総長顧問 マーティ・キーナート


欧米には、元々チャリティ精神という文化があります。自分の収入の10%を教会に寄附するのが、当たり前というキリスト教の習慣の他にも、恵まれている所から恵まれていない所に分け与えるという行為は、大小なりとも日常的です。それは多くのハリウッドスターや億万長者の活発な慈善活動家から、街角の小さな募金運動まで種々多様です。


日本でも、個人の助け合いや人情、お付き合いといった形での分け与えは日本人の美徳であり素晴らしさのひとつです。が、お金による慈善活動が偽善的で胡散臭いものであるというイメージと、既存の寄附団体への不信感も根強く、なかなか寄附文化が根付いてこなかったというのが現状でしょう。その他にも日本で寄附活動が盛んにならない理由は多様ですが、ここでは、世界に広がる「与える」という文化とその活動を紹介したいと思います。


2010年6月、アメリカで最も裕福な人のうちの2人である、ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットが、「Giving Pledge Campaign」 という寄附啓蒙活動キャンペーンを始めました。ビル・ゲイツは、言うまでもなく、マイクロソフト社の創立者であり、ウォーレン・バフェットは、世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイの筆頭株主、会長兼CEOでもあります。2人は、現在世界屈指のビリオネア(1100億円以上の資産がある人)たちに、自分の資産の少なくても半分を、生きている間もしくは死んだ後に慈善事業に寄附するように強く勧めています。

                

ただし、彼ら2人は50%より大幅に多い額を寄附する事を2010年に約束しています。ゲイツは、資産の95%を慈善事業に寄附し、バフェットは、その99%を寄附する事を約束しました。

                

経済紙のForbes によると、ビルとメリンダ・ゲイツ夫妻は、$ 792,000,000、(約8兆7120億円)を、ウォーレン・バフェットは、$667,000,000、(約7兆3370億円)の資産を持っています。 とすれば、ゲイツ夫妻は、$752,400,000(約8兆2764億円)を、バフェットは$660,300,000(約7兆2,633億円)を慈善事業に寄付するということになります。

                

1年足らずで、ゲイツとバフェットは、67人の米国のビリオネア(1100億円以上の資産がある人)を仲間に引きいれ、慈善事業に彼らの資産の多くを寄附するよう約束させる事に成功しています。

                

朗報は続きます。まず、2016年現在までに、このGiving Pledgeにより寄附する事に同意したビリオネアのリストは、142個人(またはカップル)に増えている事。そして、次に、このGiving Pledge運動が世界中に広がっているという事。参加国は、今や米国だけではなく、オーストラリア、ベリーズ、ブラジル、カナダ、英国、ドイツ、インドネシア、インド、アイルランド、マレーシア、パキスタン、ロシア、スコットランド、南アフリカ、スイス、台湾、トルコ、ウクライナ、ジンバブエにも、広がっているのです。

               

米国の大実業家であったアンドリュー・カーネギー Andrew Carnegie (1835-1919) は、慈善活動家としても非常に名高かった人物であります。彼は、このような名言を残しています。曰く、“A man who dies rich, dies disgraced.” =「大金持ちのまま死ぬのは、不名誉なことである」と。

               

ビル・ゲイツも、このカーネギーから大きな影響を受けたと語っていました。カーネギーは、多分歴史上最も多くの慈善事業を手がけた一人であり、1891年にニュヨーク市に建設された世界的に有名なコンサートホールのカーネギーホールを始め、有名な私立研究大学のカーネギーメロン大学や、世界中の約3000近くの図書館、その他挙げきれないほどの慈善事業を立ち上げているのです。

               

このGiving Pledgeのメンバーには、その他にも、有名なチャック・フィーニー Chuck Feeney が名を連ねています。彼は、世界中で見かけるあのDFS = Duty Free Shoppers 免税店の創立者です。チャック・フィーニーは、ゲイツやバフェットよりも更に先を行っており、彼の存命中、そして死後に至るまで財産の100%を慈善事業に寄附するとしています。彼自身はサンフランシスコの狭い賃貸住宅に住み、車を持たず、とりあえず自分の生活には一切お金を使わないと徹底しています。死ぬまでにすべての財産を慈善に使い切るという彼の座右の銘は、「天国にお金は必要ない」だといいます。

               

これらの人物に共通しているのは、自分のお金を注ぎこむ慈善事業は、ただのチャリティではなく、投資と同じと考えていることです。すなわち、ただお金を与えるだけではなく、投資した額に見合うだけの成果、効果がある事業を選んで寄附しているという事です。

               

現在、世界にはざっと見ても1810人のビリオネアがいると言われており、そのうち540人は、米国人です。日本人のビリオネアも27人が挙げられており、私は、日本人がこの国際的な慈善事業の寄附活動に加わる日も、そう遠くはないと思っています。

                

日本でも多くの人が喜んで寄附ができるようになるのには、税制の改正を含めて、システムを変えないといけませんが、必要とされる人々の手助けになるような寄附ができやすい土壌になることを願っています。

                

次号では、“Giving What We Can” という活動を紹介したいと思います。

これも世界中の裕福な人たちの慈善団体であります。ただこれは裕福な人の為だけの慈善事業ではなく、普通の人が本当に必要としている人を助けるという活動です



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。日米両国においてビジネス、プレイヤー双方の実経験から、日米比較や日本の教育システムにさまざまな問題を提起。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授。         

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