コラム

(67)Shohei, Too good to be true!

 マーティ・キーナート


アメリカでは悲しいことに、若くして大金を手にしたプロスポーツ選手が、そのほとんどを数年で浪費し、選手生活が終わってしまうと自己破産というケースは多くあります。

例えば、ボクシングヘビのチャンピオンだったマイク・タイソンは、20年間で400億円以上の収入があったのにも関わらず、豪遊と豪邸、虎やダイヤモンドにお金を注ぎ込み、多くの裁判も抱えて最終的には自己破産しました。ゴルファーのジョン・デーリーは、1991年PGA全米プロゴルフ選手権にて、補欠で初出場し初優勝、一夜にして有名になりその年の新人王にも輝きました。その後の輝かしい成績で稼いだものの、100億円近い生涯賞金をカジノでのギャンブルにほとんど注ぎ込んでしまいました。
また、引退したNFLのスーパースター、ローレンス・テイラーは、50億円以上の収入がありながら、1990年代後半に自己破産をしました。彼は薬物中毒で数回逮捕されたこともあり、またエスコートサービスに毎晩10万円以上を使っていたと告白しました。
残念なことに、このような巨額な収入を無駄にしてしまうプロスポーツ選手のリストアップを続けるのは簡単なことです。例えどんなに優れたアスリートであったとしても、その人格が同じように素晴らしいとは限らないのです。ましてや若くして大金を手にすることのあるスポーツ選手は尚更でしょう。

それを考えると、昨年目覚ましい成績を残した大谷翔平選手のお金の遣い方は非常に素晴らしいです。巨額の契約金でドジャースに移籍をする決断のまえに、すでに彼は日本全国全ての小学校に3個ずつの野球グローブを寄附すると発表し、それはすでに全国に届いています。60,000個近いグローブ贈呈にかけた金額は約18億円。このプレゼントは、必ず多くの野球少年の夢を実現することになるでしょう。私も6歳の頃、初めて本革のグローブを手にした日は、嬉しくて、嬉しくてそれを持って寝床についた思い出があります。そして昨年12月には、大谷選手は10年約1,019億円というスポーツ選手として、史上最高金額の契約をロサンゼルスドジャースと締結しました。
さらに世間を驚かせたのは、その契約方法で7億ドルの契約で97%に当たる6億8,000万ドル(約990億円)を後払いとし、その分をチームの強化に使って欲しいと申し出たのです。なぜなら彼にとっての最優先事項は自己ではなくチームの優勝であるからと。彼は確かに宝石や豪邸やギャンブルなどに浪費するつもりはなく、夢はただ一つワールドシリーズの優勝のみであると話しています。
寄附することで、他の人々を幸せにし、またそれに関する関連企業も特需を受け、さらには球団も優勝に向かって予算をふんだんに使うことができる。誰もがwin-winの構図というわけです。
もちろん良いアドバイザーやエージェントが周りにいるとしても、29歳の若者がこれだけの決断を実行できるというのも驚きです。

私の友人でもある作家のロバート・ホワイティングは、大谷選手のことをこう評していました。
“Too good to be true!”本当とは思えないほど出来過ぎだよ!と!!



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。2018年よりプロバスケットボールチーム「仙台89ERS(エイティナイナーズ)」のオーナー代行兼シニアGM就任。   

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