コラム

(15) Philanthropy comes in all kinds of tastes

 マーティ・キーナート


普通、寄附と聞くと日本では、大学へ学生の奨学金寄附や、美術館への美術品寄贈などを思い浮かべることでしょう。しかしながら、最近私が気になったのはこの強烈と言える変わった寄附の形です。


今年の初め、ブルームバーグニュースなど多数の報道機関を所有するメディア王であり、ニューヨーク前市長でもあったマイケル・ブルームバーグ氏は、220億円強を世界中の禁煙対策のために寄附したと発表しました。これはすでにここ十数年で、すでに800億円以上を禁煙活動に費やしてきた寄附に加えると彼の禁煙啓蒙への寄附はゆうに1000億円を超えている事になります。


ルームバーク氏はタバコを「人類への災難」と呼び、バングラデシュ、インドネシア、インド、中国、ロシアなど比較的低所得の人口が多く80%以上が喫煙者である途上国にターゲットをあて積極的にセールスを行っているアメリカのタバコ会社を激しく非難しています。アメリカにおいては、タバコが確実に人体に与える害や二次喫煙被害を訴える長年の禁煙啓蒙活動が功を奏し、喫煙者の数は確実に減少しています。対して、喫煙者が未だその害を理解していない国々では600万人以上の人が喫煙の影響にて命を落としているのです。


ブルームバーグ氏は、ニューヨーク市の市長だった2003年には禁煙条例(New York City Smoke-Free Air Act)を導入し、バーやレストランでの喫煙を禁止。さらにその後、たばこ税の大増税や反喫煙広告キャンペーンの展開、ニコチンパッチの無料配布なども積極的に行い、その結果、ニューヨーク市の喫煙率は同氏が市長に就任した2002年には21.5%だったものが、2014年には13.9%にまで低下しているといいます。


2006年と2008年には、彼は禁煙キャンペーンの矛先を世界に向け、最初に125億円、更にその後250億円を寄附し、WHO(World Health Organization=世界保健機関)をパートナーとして、自らの財団で途上国への禁煙啓蒙「Bloomberg Initiative to Reduce Tobacco Use」を展開しています。


しかし、世界で有数のタバコ生産国で3億人以上の喫煙者を有する最大の消費国でもある中国は、その税収入の1/10近くをタバコ税から得ています。毎年120万人近くの中国人が、喫煙がなんらかの原因による死因で亡くなっている中国では、それでもタバコ1箱が1ドル以下という世界でも最も安い価格で未だに販売されています。中国では、税収入の方が人の命よりも大切かのようにも思えてしまいます。


しかしながら、我々日本も中国だけを指差すことはできないかもしれません。日本も禁煙啓蒙活動については、残念ながら後進国です。それはもしかしたら、JT=日本たばこ産業の約34%は日本政府が所有しているという事実が関係しているのでしょうか?日本もかなり進んできましたが、まだあまり積極的な禁煙啓蒙の活動をみる事はできません。


私は個人的には、日本にもマイケル・ブルームバーグのように強力に煙草の煙害を排除できるような慈善家がぜひ必要だと思います。




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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。日米両国においてビジネス、プレイヤー双方の実経験から、日米比較や日本の教育システムにさまざまな問題を提起。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。   

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