コラム

(12)We need more doctors - How to get them?

 マーティ・キーナート


アメリカで最も知られている慈善家の一人は、Kenneth Langone/ケネス・ランゴーン氏です。ランゴーン氏は、1935年にNY市で生まれました。カフェテリアのウエイトレスの母親と配管工の父親の元で、彼曰く「愛に溢れていたけれどもお金は全くなかった」家庭に育ちました。ペンシルバニア州のBuchnell大学と後のニューヨークユニバーシティ大学院の学費を稼ぐために、彼はロングアイランドの高速道路の土木工事をしながら卒業したのです。


大学院学位を取得したあと、ランゴーンはウォール・ストリートでキャリアを積みます。いくつもの会社の業績を手助けしたあと、彼は1974年に自らのベンチャーキャピタル会社を立ち上げ、そのうちの1つの事業として「ホームデポ」社の立ち上げに参画。こののち「ホームデポ」は50万以上の従業員を抱える国際的なチェーン会社に成長し、ランゴーンはいまでもホームデポの大きな株主です。


彼の輝かしいキャリアの早い時期にランゴーンは教育と医療と福祉の分野に貢献をしたいと考え、NYUメディカルスクールの理事長に1999年に就任しました。2008年には彼と彼の妻は220億円の寄附を個人としてメディカルスクールに贈っています。これは、現在でも個人による最高額の寄附です。


更にランゴーンが学長のRobert Grossman/ロバート・グロスマンに彼の夢はなにかと尋ねたところ、グロスマン学長は、「私の夢は我が医学大学の全ての学生の学費を無料にすることです」と答えました。そこで、ランゴーンは資金集めに奔走し始めます。彼は自らさらに110億円の寄附をしただけでなく、11年間でなんと385億円の寄附を集めることに成功します。


それにより昨年の8月、NYUメディカルスクールは、現在籍の医学生、および将来この学校に入学する医学生は、その支払い能力にかかわらず全ての学費を無料にする事が可能になったと発表しました。2018-19年度の年間学費は一人あたり55,018ドル(約605万円)なので一人あたり卒業までにかかる200,000ドル(約2,200万円)以上が贈られた事になります。


アメリカの医大協会によると、2017年卒業のアメリカの医学生の75%がなんらかの借金を抱えて卒業するとしています。学費と生活費を合わせ、医学部生にかかるおおよその額は一人あたり年間59,605ドル(約655万円)そして医学部卒業生の借金の平均額は、202,000ドル(約2,222万円)です。


日本と同じようにアメリカも医師の不足に悩んでいます。いくつかの診療科において特にそれが顕著なのです。NYUメディカルスクールの2年生のサラは、この素晴らしい贈り物の話を聞いた時「これで私は、どの分野に医療のケアが必要とされているかで私の専門を決める事ができます。どの分野が高収入かという事を気にせずにね!」と語っています。ランゴーンは「この学生たちが将来コミュニティに恩返しをしてくれる事を期待しています。彼らがきっとそうしてくれるだろうと信じています」と語っています。


日本も多くの医師を必要としており、特に人口が減少している地域などは深刻な問題を抱えています。いつの日か日本にもランゴーンのような人物が現れてくれるよう期待しています。



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。日米両国においてビジネス、プレイヤー双方の実経験から、日米比較や日本の教育システムにさまざまな問題を提起。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。

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