コラム

(30) Decisions Becoming More Difficult to Make During the Corona Pandemic

 マーティ・キーナート


このコロナウィルスのパンデミックの影響で、多くのビジネス同様、世界中の美術館も見通し不可能な困難に直面しています。この数ヶ月で米国の3/4の美術館は臨時閉鎖されており、その中には古代から現代までの5,000年以上の歴史にわたる美術品を所有し、世界的に有名なアートを膨大な量で展示しているニューヨーク市のメトロポリタンミュージアムオブアート(MET)も含まれています。また世界に名だたるボストンのファインアート美術館、ワシントンDCのスミソニアン美術館も同じく臨時閉館しています。このように臨時閉館を余儀なくされる美術館が多い中、いくつかの美術館が生き残る為に大きなチャレンジをしようとしています。

その一つが、メリーランド州ボルチモアにあるボルチモア美術館(BMA)です。BMAは、所有しているアンディ・ウォーホルの巨大シルクスクリーン作品”The Last Supper”(1986作)、ブライス・マーデンの”3“、そしてクリフォード・スティルによる”1957-G”をオークションによって売りに出し、生き残りのための資金を得る大胆な計画を発表したのです。

この3点が売れた場合、それぞれ42億、14億、そして12億円となり、この売り上げは総額68億円以上になります。BMAはこの基金を元手に、54億円を使用して美術館を開館させ、そしてダイバーシティへの進歩のサポートと組織の自己資本力の強化を推し進めるため、残りの10億円でジェンダーギャップなどの是正施策として女性や有色人種のアーティストの多くの作品を取得して、ボルチモアのコミュニティへアピールをしたいと考えていました。さらにはその基金の利子でスタッフの給料や、特別展示会の無料化、日中に来館できない観客の為に開館時間の夜間延長も計画していました。

このBMAの計画についてなかなか良いアイデアだと思いませんか?

しかし、美術館の中枢の関係者の中にはそう思わない人もいたようなのです。
BMA元理事長のCharles Newhall III氏は、この有名な一流絵画3点の売却に反対しただけではなく、将来予定していた彼個人の30億円にものぼる美術館への寄附金の約束を撤回することにしたのです。さらには、元理事長のStiles Colwill氏も同じように20億円の寄附の約束をキャンセルしました。
また、名高いアーティストでありBMAの理事でもあるAmy Sheraid 氏とAdam Pendleton氏の2名も理事を辞任する意向を明らかにしました。表向きは理事会にかける時間の余裕がないという理由でしたが、絵画の売却に反対していたことは明らかでしょう。

それでもBMAは絵画の売却を進めているため、結果、売却額と同じぐらいの額の寄附金を失うことになりそうです。

私はこのニュースを知り、BMAの経営陣を非常に気の毒に思いました。この大変な時期に彼らは長期的に見て美術館を救う手立てを取ろうとしたのにも関わらず、誰もが同じような考えではなかったのです。
格言にあるように
“It is impossible to please everyone, all the time!”
「すべての人を常に喜ばすことは不可能である」
ということなのでしょう。



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マーティ・キーナート

<プロフィール>

アメリカ ロサンゼルス生。1968年スタンフォード大学卒。1969年慶応大学日本語コース修了。以来滞日40余年、一貫して日米を通じたスポーツビジネスに身をおく。2004年「東北楽天ゴールデンイーグルス」の初代ゼネラルマネージャー。仙台大学特命副学長/東北大学特任教授などを歴任。2018年よりプロバスケットボールチーム「仙台89ERS(エイティナイナーズ)」のオーナー代行兼シニアGM就任。   

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