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川内萩ホールについて

公共建築賞(優秀賞)を受賞した百周年記念会館川内萩ホール。建築意匠や音響の特性などその魅力を紹介します。

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音響設計

東北大学電気通信研究所 教授
(先端音情報システム研究分野)
鈴木 陽一

旧川内記念講堂の音響設計

故二村忠元名誉教授が、城戸健一、曽根敏夫(いずれも現名誉教授)らの協力のもと音響設計を担当、豊かな残響(空席時2.0秒)と、当時最先端の電気音響装置を備えた優れた音空間を実現した。現代の目からみても、多目的ホールとしては極めて優れた音響性能を有していたが、近年のホールからみれば、音響設計がやや古風で、若干物足りなさを感じるのは否めなかった。

基本的音響設計理念

室形状から全面的に見直すという他に類例を見ない抜本改修を利し、最先端の音響学の知見に基づいて、一流の音楽ホール音響と、講演を明瞭(りょう)に聴き取れる良好な音空間環境という、一般には両立が困難な要件の両立を図る。

音響設計の要点

  1. 一流の音楽ホール音響実現のため、アムステルダムコンセルトヘボウ等、世界一流のホールの典型の一つであるシューボックス型(形状が直方体に近い靴箱形)に設定。ステージも大編成オーケストラや合唱付きの編成が可能なよう大幅に拡大。
  2. 側壁からの初期反射音が音の広がり感を与える上で重要なことから、横幅を可能な限り狭め、一階席の幅は、シューボックス型として理想的な値の約20mに設定。また、壁全面にわたって適切な拡散が生じるよう左右の側壁に非対称な拡散リブを配置。
  3. 良好な音響を実現するには、一席あたりの容積を大きくとる必要があることから、座席数の数を1900余から1230余席へと減じ、最終的に9.0m3と充分な値を確保。
  4. 幅広い音楽シーンと国際会議機能に適合した音響とするため、残響時間(エネルギーが百万分の一に減衰する時間)は、ホールの容積から見て最適値の1.8秒(満席時、500Hz)を目標値に設定。
  5. 音声の明瞭な聞き取り性能確保のため、スピーカの機種、配置、指向性を慎重に検討。
  6. 残響の余韻感に大きく関係する室内騒音のレベルはNC15と極めて高い水準に設定。

音響設計の経緯

図1:改修前後におけるホール1階平面形状の比較

今回の改修における形状の変化を図1に示す。新築に比べて、法規上及び構造上の大きな制約があったものの、建築設計チームの絶大な協力により、音響側からの要求はほとんど満たすことができた。通常の音響設計は建築家の構想の範囲内で行われることが多いことを考えると、今回の改修は、音響設計に多大な配慮が為されたといえ深く感謝している。

1/10模型と可聴化による事前の音響特性の確認

1/10模型内の実験風景。
左下は今回開発した精密1/10ダミーヘッド

本ホールの音響を竣工の前に精密に確認するため、新しい可聴化(auralization)技術の研究を総長裁量経 費により遂行した.その結果、1/10の模型実験(図2、高周波数領域が苦手)とコンピュータシミュレーション(低い周波数領域が苦手)を組み合わせることにより、それぞれの特徴を生かして20Hz~20kHzの全可聴周波数にわたり高精度な可聴化を行う技術-ハイブリッド可聴化技術-の開発に世界で初めて成功した。

この技術を用いて、改修結果を、10月の竣(しゅん)工を待たずに高精度で予測した結果、改修後の音が期待どおり高品位になると推定することができた。

実現された音響特性

ホールの響き具合を表す指標として最も広く使われている残響時間は、設計値どおり1.8秒を実現できた。また、音の広がり感の指標である両耳相互相関関数は0.42~0.44と極めて良好な値が得られた。騒音レベルもNC15の厳しい目標を達成した。

音声の伝達聞き取り性能指標であるRASTI(Rapid Speech Transmission Index)値の測定の結果、良好な音声聞き取りの目安となる0.45を全ての測定点で超える性能が得られていることが確認できた。

公開実験による音響特性確認

「川内萩ホールの響き」公開実験の様子


                                 ダミーヘッド

川内萩ホールが8月に竣工した後、空席時の測定が行われた。その結果、残響時間や騒音レベルなど、全ての音響設計指標で所望の音響特性が得られていることが示された。しかしホールの性能は満席時で設計されており、本当に満席のときに測定しなければ正確に知ることができない。通常は空席時の特性から満席時の特性を推定して済ませるが、大学という学術機関が作るホール であることから、最終的な音響特性の確認を行うために満席時の残響特性を実際に測定する公開実験を行うこととした。この規模の音響特性の公開実験は世界的にも過去あまり行われていない。

しかし1,230余りもの座席を満席にすることは容易なことではない。このため、音響設計についての説明とコンサートも一緒に行うことにし「川内萩ホールの響き」と称したイベントを企画した。

実験は平成20年12月10日に行われた。入場券をお配りした91%の方が来場いただけ、完全に満席にすることができた。測定に先立ち、客席には騒音計と共にダミーヘッド(人間の形をした両耳にマイクロホンを設置した装置)が7体とサウンドレベル メータが5台設置され、ステージ上には12面体形状のスピーカを設置し、スピーカから「時間引き延ばしパルス」という特殊な信号を数分間放射、無事実験を終えることができた。

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