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インタビュー

小柳 光正(こやなぎ みつまさ)教授
2007年冬発行号(第6号)掲載 東北大学大学院工学研究科 バイオロボティクス専攻 小柳 光正(こやなぎ みつまさ)教授


「未来を見据えた研究」2006年米国電気電子学会 西澤メダル受賞

専門は半導体とコンピュータ

新しい積層型集積回路、三次元集積回路を使った生体に埋め込むチップの研究、例えば、失明された方の視力を再生するための人工網膜チップの研究開発をしています。それ以外に半導体やコンピュータの基礎となる研究もやっています。現在、半導体開発の分野は、集積回路がナノの領域に向かって素子を微細化しつつあり、微生物や細菌に相当するサイズになってきています。そうした微細なトランジスタを作るための技術を研究しています。

人工網膜の研究開発

基本的に目の網膜というのは脳の一部と同じ、ほとんど脳の一部といってもいいぐらいで、耳や鼻などの感覚器官とはちょっと違っています。脳において高度な情報処理をするのは大脳皮質、脳の表面にある薄皮の部分です。その構造は大脳皮質というぐらいですから薄い皮状で、六層の積層構造になっています。

実は網膜も同じ六層の積層構造になっており、そこで様々な信号処理を超並列で行っています。基本的に超並列処理というのが脳における情報処理の原理なのです。

人工網膜で同じような超並列処理を行うためには、大脳皮質や網膜と同じ六層の積層構造でなければ同じ効率が得られないと考えて、三次元集積回路を開発しています。

例えばコンピュータに入っているマイクロプロセッサなどは、平面状にトランジスタを敷き詰めてコンピュータチップを作っています。しかしそのような平面状では、網膜など脳の情報処理機能を再現するのが難しい。そこで我々は次世代の集積回路といわれる新しい積層型の集積回路の技術を世界に先駆けて開発し、それを使って人工網膜チップを作り、眼球に埋め込むという研究をしています。

具体的には、光の信号、光の情報が人工網膜チップにパターンとして入ってくると、それを超並列で電気信号に変換し、処理して、網膜の生き残っている出力細胞を刺激して脳に伝えます。脳はその信号を基に視覚の情報を再構成し、入力パターンを理解できるようにしています。

網膜において埋め込むことができる人工網膜のサイズは、非常に小さく、わずか直径2~3mm程度です。しかし積層構造にすることで、64画素×64画素といった大きな画素を実現し、人の顔が判別できるようなレベルにできると考えています。

研究で苦労した点

the leading edge やはり人工網膜を作るための技術、新しい半導体集積回路の開発には苦労しました。半導体集積回路技術というのは、単にアイディアや計算で何かができたとしても、具体的にものができないと意味がありません。半導体の集積回路を作るためには相当の設備が不可欠で、草創期には必要な装置も自ら開発しなくてはなりませんでした。そういう点が一番難しかったです。
 しかし、これまで先見的にやってきた成果として、現在、半導体集積回路を巡る状況が変化して微細化限界と言われるようになって、いよいよ我々の作ってきた三次元集積回路の技術が使われる時代が訪れようとしています。今後は人工網膜だけでなくコンピュータチップなど全ての分野で、三次元集積回路の技術が必要になっていくでしょう。
 ここに至るには本当に大変でしたが、東北大学の半導体開発の歴史を背景に、東北大学のものづくりの精神をもって長年研究し続けてきた甲斐があったと感慨深く思っています。
 もう一点、医工連携においての苦労があります。人工網膜チップ研究開発に不可避なのが生体と人工物のドッキングです。半導体とバイオはこれまで全く接点のない領域なので、予測のつかないことが起こります。医学部の協力がなければうまくいきませんが、幸いにして連携も上手くいっており、数年後には世界初の本格的な眼球埋め込み用人工網膜チップを完成できると考えています。

西澤メダルについて

the leading edge |  IEEE Jun-ichi Nishizawa Medal 西澤メダルは、私が日立の中央研究所でやっていた半導体メモリー(DRAM)の研究に対して授与されました。
その半導体メモリーの研究は、私が電気通信研究所の西澤研究室にいたドクター時代の研究がベースとなっています。今回受賞対象になった半導体メモリーの基本的な発想はその頃に遡ると言ってもいいかもしれません。
 私が日立の中央研究所で研究をはじめた頃、日本の半導体技術のレベルはまだ低く、アメリカヨーロッパをキャッチアップする、そういう立ち上がりの時期でした。その頃の半導体メモリーといえば、DRAM(Dynamic Random Access Memory:再生動作が必要な随時書き込み・読み出しメモリー)でした。それがないとコンピュータシステムができないというぐらい重要な半導体メモリーですね。
 当時は「DRAMを制するものは世界の半導体を制する」と言われ、世界中で猛烈な競争をしていた時代でした。そんな中で私は西澤研究室での研究をベースに新しいDRAMの素子構造を着想し、研究開発を続けていました。
 世界中の大会社や研究所によって様々なアイディアや新しい概念が生み出されましたが、残った技術は二つ、私の技術と、当時同じく日立の中央研究所にいた西澤研究室出身の角南英夫教授(広島大学ナノデバイス・システム研究センター)のものでした。結局、私の技術が世界の7割程度を、角南教授の技術が2~3割を占めるようになったわけです。つまり西澤研究室の半導体技術が世界を掌握したといって過言ではありません。
 また西澤メダルは、もう一名、伊藤清男博士(日立製作所フェロー)と三人での共同受賞ですが、彼も東北大学工学部の出身です。
 受賞対象になったのが西澤研究室時代の研究をベースにしていること、また東北大学出身の角南教授と伊藤博士とともに受賞したということから、西澤潤一先生(首都大学東京学長)の名前を冠したメダルの受賞は非常に感慨深く、一番ふさわしい受賞であると思っています。

IEEE Jun-ichi Nishizawa Medalについて
受賞対象となった小柳教授の業績

研究におけるストレスはエネルギー

the leading edge  西澤先生は常に、自分の研究分野において世界のトップにならなければいけない、と言われてきました。そのためには、その時点にだけ立って考えるのではなく、その分野や技術が10年20年30年後、究極的にどうなっていくのかを見据えて研究するように、他の人がやらない研究をするように、と言われてきました。その教えを守り研究を続けてきましたが、自分で考えて、人のやらないことを研究するにはそれなりの苦労が伴います。しかし、先を見据えながら自分を信じて研究を続けるうちに、世の中が自分の考えた通りになっていき、全く理解を示さなかった人たちが私の研究に共感するようになった時、そういう時に研究者として非常に大きな喜びを感じます。
 ですから、研究におけるストレスが、次へいくためのエネルギーになっていると考えています。

同窓生に対して

研究をしていく中で、東北大学の「理論と実践」という伝統を非常にありがたく感じています。
先輩方がこの歴史と伝統を作ってくれたことに対して、非常に意義深いことと感じ、大変感謝しています。また若い人に対しては、この素晴らしい歴史と伝統を継承して世界に羽ばたいてほしいと願っております。
 半導体の分野では、既に東北大学の知名度は、世界的に見てもかなり高いものとなっています。これはもちろん西澤先生のお力が大きく、西澤メダルの創設も東北大学の歴史と伝統の証明と言えるでしょう。それもまた、世界にアピールしていただきたいものです。




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