シリーズ◎地球温暖化の将来3 地球温暖化対策の国際交渉│京都議定書の意義と現状│明日香 壽川


 わが国における家庭からのCO2排出量は二〇〇七年で日本全体の十五%を占め、年々増加の傾向にあります。排出量の伸びを抑えるために家庭においてどのような温暖化対策が可能でしょうか。

家庭におけるエネルギー消費量

 家庭用エネルギー消費は一戸当たり年間で四七GJ※1(二〇〇六年)です。用途別にみると(図1)、暖房、給湯、照明・家電機器他がそれぞれ三分の一を占めており、冷房用は極めて少ない状況です。暖房はその年の気象条件によって上下しますが、給湯用とともに過去十年間、大きな変化はありません。一方、照明・家電機器などの使用量は年々増加していますが、これは各種の家電製品や情報関連機器の普及によるものです。
 家庭用エネルギー消費量は地域による差が大きく、北海道の住宅は約八十GJで全国平均の二倍の値です。内訳では暖房用が六十%と大きな割合を占めています。これは北海道が寒冷であるという気候条件が大きく影響していますが、それだけではなく、暖房の使い方が大きく異なるからです。即ち、北海道では家全体を一日中暖房しますが、他の地域では居間や食堂など特定の部屋だけを対象として朝と晩だけ暖房するという形態です。

暖房条件とヒートショック

 このような暖房形態の違いは居住者、特に高齢者の健康問題と大きな関わりを持っています。家全体を暖房しない場合は、浴室・トイレの室内温度は低いので、暖房している空間と他の空間との温度差が大きくなってしまい、それがヒートショックの原因となります。浴室において死亡する事例は、報告されているだけでも年間三千六百人に達しています。これを解決するには十分な断熱と、暖房による適切な室温の確保が必要です。暖房エネルギー消費量が少ないことは温暖化防止の面では好ましいことですが、背景にはこんな事実が隠されているのです。

家庭における温暖化防止対策

 温暖化防止対策は、①住宅性能の向上、②設備の更新、③ライフスタイルの見直し、の三つに分けられます。
 住宅性能の向上について言えば、十分な断熱・気密化が基本です。ただし部分的な暖房の場合には、通常の断熱による削減は期待できません。カナダの断熱水準※2と同じように厚い断熱をすれば家全体を快適にした上でエネルギー消費も減らせます。
 設備の更新に関してですが、家電機器の効率は年々向上していますので最新の機器の導入は大きな効果が期待できます。給湯の消費量を賄うためには太陽熱温水器が有効です。また太陽光発電はコストの問題がありますがCO2の削減効果は大きいです。
 ライフスタイルの見直しということですが、エネルギーの節約を意識して行動する家庭では、そうでない家庭に比べ明らかに消費量が少ないという調査結果が得られています。図2は仙台市の家庭を対象とした調査結果です。左が各家庭で最も多く使っている用途を示しています。半分以上の家庭では給湯消費量が最も多いという実態です。一方、右は居住者がどの用途に最も多く消費していると思っているかの結果です。多くの家庭では暖房が最大用途だと考えています。従って暖房や冷房を使う際には節約の意識が働きますが、給湯の節約については意識しません。
 以上のように、温暖化防止を進める上では家庭で使うエネルギー消費に関する正しい情報を提供し、また居住者に理解してもらうことが重要です。

※1/GJ:熱量を表す単位
※2/カナダの断熱水準(R2000):住宅で使うエネルギーを二〇〇〇年までに大幅に削減する目的で、カナダのエネルギー省が一九九〇年に開発した断熱水準。いわゆる、高気密・高断熱住宅の代表例として知られている。

吉野 博(よしのひろし)

吉野 博(よしのひろし)
1947年生まれ
現職/東北大学大学院工学研究科教授
(ディスティングイッシュトプロフェッサー)
専門/建築環境 自然エネルギー利用 健康住宅
研究室/http://www.archi.tohoku.ac.jp/labs-pages/kankyo/index.html

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