美白研究の新たな展開~小胞輸送研究が切り開く新しい美白へのアプローチ~福田 光則

3D元年?

 二〇一〇年は3D元年と呼ばれました。実際、映画館では3D映画が多数上映され、電器店には3Dテレビが並ぶようになりました。「3D」という言葉も世の中に定着した感があります。少し前までは「三次元の…」と説明が必要であったような場面でも、最近では「3D」と言うだけで、「あ、あの特殊な眼鏡をかけると立体的に飛び出して映像が見えるテレビや映画のことね」と理解してもらえるようになりました。
 「元年」と言っても、実は3D映像の歴史は古く、静止画(写真)の両眼立体視技術は一八三〇年代に英国で考案されました。その後様々な技術が提案され、現在の3D映像関連技術につながっています。たとえば、世界初の動画による3D映像は、ちょうど百年前の一九一〇年代に上映されましたが、視差を持った少し異なる右眼と左眼の映像をそれぞれ赤と青の二色で投影し、人は各眼に同じく赤と青のフィルタが付いた眼鏡をかけて見ていました。アナグリフと呼ばれる方式です。現在市販されている3Dテレビでは、右眼用と左眼用の画像を順番に高速に切り替えて表示し、そのタイミングに合わせて眼鏡の左右眼のシャッターを順に開閉するというアクティブ・シャッターと呼ばれる方式が用いられていますが、その原型は一九二〇年代に考案されました。ただ、当時は電磁石を用いて機械的にシャッターを開閉していましたが、現在は、液晶を使って電子的に開閉しています。
 百年に及ぶ3D映像の歴史の中で、「3Dブーム」と呼ばれる時期が実は過去に二回ありました。いずれもアメリカの映画業界が発信源でした。一九五〇年代のブームでは、直線偏光フィルタを用いて左右両眼映像を分離するパッシブ・ステレオと呼ばれる方式で3D映画が上映され始めました。現在でも同じ方式は映画館で使われています。一九八〇年代には、液晶を使ったアクティブ・シャッター方式が登場しました。いずれのブームでも多くの3D映画が制作・上映されましたが、二~三年でブームは去ってしまいました。立体感をいたずらに強調するだけの単純な作品が多く、上質なコンテンツが不足していたことが原因だったと言われています。それらに比べると今回のブームは、デジタル技術の進歩と普及という土台に乗ったものと言うことができます。優れたストーリーと3Dの特徴をうまく活かした演出効果を持つ映画が多数制作されつつありますが、何よりも、デジタルテレビやブルーレイなどの高画質映像メディアの普及に伴い、家庭でも3D映像を楽しめるようになってきたことがブームに火をつけているようです。

3D映像は1人用?

 3Dの映像コンテンツを家の3Dテレビで見るとき、眼鏡さえかければ、家族や友達と一緒に楽しむことができます。映画館などではもっと大勢の人が一緒に3D映画を見ています。 しかし、全員が同じように3D映像を楽しめているでしょうか? 答えは否です。映画などの3D映像は、映画館の中央付近の座席の人にとって一番見やすくなるように作られています。3Dテレビを見るときも同じです。図1⒜のように、画面やスクリーンの正面にいるAからは正しく映像が見えますが、右や左にいる人(BやC)から見ると、映像はひずんで見えてしまいます。 理想的には、BやCからも、図1⒝に示すように、Aと同様のひずまない正しい映像が見えるようにしなければいけませんが、現在の3Dテレビや映画では実現されていません。
 また、1人で3D映像を見るときにも問題はあります。現在の3Dテレビや映画では、Aの場所にいる人が、BやCの位置に移動したとしても、映像内の対象物の右や左の側面が見えるわけではありません。一般に、人はさまざまな手掛かりを使って脳で立体を知覚していますが、3Dテレビや映画では、主に左右眼の視差(両眼視差)のみを使っています。左右に動いた時の見え方の変化は運動視差と呼ばれ、立体知覚の重要な手掛かりの一つであるにもかかわらず、これらは実現されていませんでした。

みんなで見て、そして触れる立体ディスプレイ

 そこで、複数の利用者が、それぞれ自由に動き回りながら、各々の視点から、ひずみがない3D映像を見ることができる立体ディスプレイの原理を提案し、試作しました。 図2⒜は、A、B、Cの三人がそれぞれの位置から、このディスプレイに表示されたスペースシャトルの像を見ているところで、各人はそれぞれ同図⒝⒞⒟のように異なった方向から見ることができています。そして、あたかもそこに一つの実物があるような感覚で、その立体像を共有することができています。ここで、同図⒞のように、Bがスペースシャトルの先端に指を伸ばし、同図⒟のようにCが尾翼に指を伸ばしている時、この様子をもう一人のAから見ると、同図⒜のように、Bがスペースシャトルの先端に、Cが尾翼に指を伸ばしていることを確認できます。このように、この立体ディスプレイでは、みんなで見ることができるだけでなく、最近、直観的な操作ができるとして注目を集めているマルチタッチ式のインタフェースを、マルチユーザで実現することもできます。
 このような特徴を活かして、いくつかの分野へ応用してきました。たとえば、博物館での教育への応用では、先生と複数の生徒たちが同時に一つの展示物を見ることができます。場合によってはインタラクティブに直接指を伸ばして、内部を見ることもできます。また図3⒜は医療応用を想定してボリュームデータを表示した例です。複数の医師や手術支援者に対して立体映像を適切に表示することができれば、意思決定の効果的な支援だけでなく、手術計画やシミュレーションも、現場状況に即した臨場感の高いものにすることができます。さらに同図⒝は三次元ファクシミリのイメージ図です。三次元物体を遠隔地間で共有することができるシステムで、実物体を持たない側でも、実物体を持っている側と同じように、複数人が自由な位置から対象物を立体的に観察することができます。このような技術が世の中に普及すると、テレビやインターネットでのショッピングの形も変わるかもしれません。

次の3Dブームに向けて

 現在の3Dブームが何年続くのかわかりません。ひょっとしたら、今回3D映像が完全に世の中に根付いて、もはや普通の技術となってしまえば、未来にはブームと呼ぶ現象はないのかもしれません。しかし、今後、世の中に浸透されるべき3D技術には、本稿で紹介した「みんなで見てさわれる3D映像」を表示するためのディスプレイ以外にも、眼鏡をかけなくても立体に見えるディスプレイなど、まだまだ多く残っています。さらにこれからも新しい技術が数多く提案・開発されるでしょう。
 これまで、3Dブームはちょうど約三十年の周期でやってきています。もしこのペースで第四回のブームがあるとすると、二〇四〇年頃ということになるでしょうか。この時はさすがに私も現役を引退しているので、そのタイミングで可能な3D映像関連技術を確実に世の中に普及させ、人びとの生活に喜びや感動を与えられるようにするために、次世代の3D技術をしっかり担う人材を一人でも多く世の中に送り出すことに、今は力を注ぐことにしようと思っています。

 

北村 喜文(きたむら よしふみ)

北村 喜文(きたむら よしふみ)
1962年生まれ
現職/東北大学電気通信研究所教授
専門/インタラクティブコンテンツ
   ヒューマンインタフェース
http://www.icd.riec.tohoku.ac.jp

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