東北地方の「口の健康」を高めるために
―東北大学地域歯科保健推進ネットワーク構想―
小関 健由=文
text by Takeyoshi Koseki

 皆さんの生活では、口はどのように活躍していますでしょうか。「食べる」、「話す」、「笑う」などがあげられます。口がなくなると、毎日の生活がなんと侘びしいものとなってしまうことでしょう。口は生活そのものを支えるために大活躍しています。「口の健康」の大切さを認識すると、口の病気を予防・治療して良い状態を保つ大切さが見えてきます。私たち歯学研究科は、この「口の健康」をいかに高いレベルに維持するかを中心にすえて、研究・教育・臨床を実践してきました。しかしながら、私たちの地域の「口の健康」レベルは決して高くなったとは言えません。例えば乳幼児のむし歯の発生率は、残念ながら東北地方と九州地方は日本の最下位にあり、2004年度では宮城県の都道府県ランキングは下から五位となっています。東北地方に住む子どもが他の地方に引っ越した場合は、口の状態が普通だと思っていた子が、むし歯の多い子にされてしまうのです。
地域歯科保健推進ネットワーク構築
 この口の健康レベルの不均一性は、私たちの大きな研究テーマです。本年で創設四十二年となる本研究科は、東北地方に唯一の旧国立大学歯学研究科・歯学部であり、東北地方の地域歯科保健推進の重責を担う歯科医師の教育と輩出に邁進してまいりました。しかしながら、この歯科保健への貢献でも、日本全体の口腔保健の状態が改善したことも影響して、なかなか全国レベルに追いつきません。さらには、健康増進法による「健康日本21」がスタートし、各自治体の健康目標を達成するための健康施策が全国的に評価されるようになってきました。これらの大きな流れの中で、東北地方の歯科保健の遅れが浮き彫りとなり、新たな知の集約と歯科保健を推進する作戦が必要になってきたのです。
 歯学研究科は、東北地方のさらなる歯科保健推進の中心を担うために、東北大学地域歯科保健推進室を2007年度に設置し、この問題を専門に考える窓口を開設いたしました。この推進室は、東北一円の行政・組織・団体から構成される歯科保健推進ネットワークのキー・ステーションとして、歯科保健に関わる課題を集約・整理・分析し、問題点を抽出します。さらに、この問題点を歯学研究科の各部署に送り、研究科全体の知の集約をもって対策や解決策を提示するシンクタンクとして、必要に応じて自治体に提言を行います。一方、歯学研究科に寄せられる情報や要望の窓口として、また東北地方における口腔保健・医療・福祉の窓口としての任に就きます。将来的には、東北地方の歯科保健に関わる自治体や歯科医師会、教育機関や医療機関の集まるリエゾンオフィスとして機能する歯科保健推進機構に拡大していく予定です。現在、地域歯科保健推進室では、宮城県の歯科保健の基礎データとなる歯科健診に関する事業がスタートしようとしています。
 東北大学大学院歯学研究科は地域歯科保健推進室を開設し、真摯に地域歯科保健の推進に心を砕きますので、皆さんのご協力をお願いしたいと思います。

こせき たけよし

1962年生まれ
東北大学大学院歯学研究科教授
専門:予防歯科学

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