研究室からの手紙
眼科における再生医療
―目の表面の新しい治療法


西田 幸二 ・ 久保田 享=文
text by Kohji Nishida and Akira Kubota
 
 
近年の眼科領域における進歩は目覚しいものがあり、その中でも日本の眼科は世界をリードする立場にあります。以前は眼科というと目を洗って目薬をもらうだけというような印象を持たれていましたが、その後技術や器具が進歩して現在では手術で治療可能な病気が増え、外科的な側面が増えてきました。
 私たちの研究室では、角膜といって目の一番表面にあるいわゆる黒目とよばれる部位の研究を主に行っています。角膜が濁る病気の原因にはさまざまなものがあり、感染症のあとやアルカリ性や酸性の液体が飛入することによる化学外傷、また体全体の病気に伴って角膜が濁ることもあります。
 このような角膜が濁る病気には、これまで角膜移植が行われてきましたが、重症の患者さんではその治療成績が良くありませんでした。ここでの問題点は、移植できる角膜自体が不足していたことと、またたとえ移植できても他人の角膜を移植しているので拒絶反応が高率におこっていたことでした。

「培養上皮シート移植の方法」
「培養上皮シート移植の方法」
患者様自身の角膜や口腔粘膜組織を採取して体外で培養し、上皮細胞を増やした後に回収して移植します。

 前者の問題に対して、私たちは目の不自由な方へ眼球をあっせんするアイバンクの活動を熱心に行っています。アイバンクは、お亡くなりになられた方から眼球を提供していただいて、目の不自由な方へと移植できるまでのお手伝いをする組織です。宮城県では(財)東北大学アイバンクがその役割を担っています。角膜移植の歴史は100年以上にもおよび、多くの目の不自由な方が視力を回復されています。アイバンクの活動は慈善事業で成り立っていて、その活動はすべて寄付によってまかなわれています。私たちは、このようなすばらしい活動に参加できることに喜びを感じるとともに、より多くの市民の方々にも私たちの活動に賛同していただきたいと考えています。
「東北大学アイバンクのリーフ
「東北大学アイバンクのリーフ レット」。ドナー不足を解消するために配布している、ドナー登録用紙の入った リーフレット。

 また、後者の拒絶反応の問題点に対しても、私たちは熱意をもって取り組んできました。やけどなどで目の表面がひどく障害を受けた方には、これまで良い治療法がありませんでした。他人の目を使うとどうしても拒絶反応が起きてしまうからです。そこで、私たちは片方の目だけが障害されている方の場合は、もう片方の目から角膜上皮とよばれる目の表面の皮を体の外で作って移植し、両方の目が障害されている方の場合は、口の粘膜から角膜上皮に代用できるものを作って移植するという、新しい角膜の再生治療法を開発しました。この私たちの方法では、自分自身の細胞を使っていますので、拒絶反応の心配がまったくありません。加えて、自分自身の細胞を使うので、眼球の提供を待つ必要もありません。このような新しい治療法で、これまで治療できなかった方を救うことができるようになり、医師としてうれしく思うとともに、いまだよい治療法のない疾患に対してはさらなる努力が必要であると痛感しています。
 現代は医療が万能であるかのような錯覚に陥っているような感もありますが、医学はまだまだ未完成で、つねに進歩しつづけているものであり、今後もますます発展していくものであるということを忘れてはならないでしょう。たった10年後でさえ、どのように進歩しているかは予測できないものなのです。私たちが新しい治療法を開発できたのも、過去の基礎研究に基づいた結果であり、医学の発展のためにはこのような研究がますます欠かせないものになるでしょう。

にしだ こうじ

1962年生まれ
東北大学大学院医学系研究科教授
専門:眼科学

くぼた あきら

1974年生まれ
東北大学病院眼科助教
専門:眼科学
http://www.oph.med.tohoku.ac.jp/

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