学校ボランティアで地域貢献と人づくり
水原 克敏=文
text by Katsutoshi Mizuharai

小学校でのボランティア活動

 新入生を指導していると、「大学入学前は受験勉強のことばかり集中していて、入学後どうするかをあまり考えていなかったため、今、自分がこれから4年間をどう過ごしていいのか分からずにいる」。「私は1年間浪人して勉強したのですが、実は第一志望の大学ではないので、これからどうしようかわからない状態です」と書いてくる人が意外に多いです。
 人間としての視野が狭い青年たちが、そのまま勉強してもほんとうの学問や自分づくりにはつながりませんので、私は、新入生を対象に「自分」という授業を開きました。いろいろな人の人生経験を聞かせてやろうということで、青年期の夢と挫折の経験を多くの人に話してもらいました。学生たちには大変な人気で、全学部300人もの学生が受講するようになりました。さまざまな人の個人的な人生論は大変な感動を持って受けとめられ、学生たちは貴重な人生の糧を得たと思います。この授業記録は、東北大学出版会より『自分』として三冊刊行しました。引用したような学生の生の感想が見られ、東北大学自体を知る上でもいい資料にもなっています。
 授業はほぼ成功しましたが、私には不満が残りました。教室の中だけの聴講と討議そして感想文の筆記だけでは不十分で、もっと社会経験をつませ、さらに世界的な視野も得させたいと感じました。しかし、これを教え込んでしまうと消極的になってしまうので、彼らが自ら気づくような経験をさせたいと考えました。

水原克敏編『自分』三部作

 それで学校や地域の人に貢献することを通して、学生たちの人間形成を豊かなものにふくらまそうと学校ボランティアを組織しました。目下、私の研究室では、全学の学生に呼びかけ、さまざまな部局の学生・院生など約130名が登録会員となっています。仙台市内はもとより県内各地の学校に、授業アシスタントや登山・運動会などの付き添いとして派遣しています。学校や地域の方々から大変感謝され、教育委員会からは感謝状まで頂きました。
 他方、学生たちは可愛い少年少女たちと触れ合い、わからないことの質問を受けたりさまざまな面倒をみたりすることで、自分はどういう人間か、改めてその未熟さを思い知らされています。ボランティアの参加者からは、「私の、喪失感や、どうしようもないつらさを埋めてくれる一助になったのが、学校ボランティアでした。おおげさな表現ではなくて。本当に」などの感想が出されています。人は人と人との間でこそ生かされるということでしょうか。ぜひ学校及び地域の皆さんにも、青年の人づくりにご協力をいただけたらと思っています。

 

みずはら かつとし

1949年生まれ
現職:東北大学大学院教育学研究科 教授
専門:教育

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