暮らしのなぁるほど学1

くすりとグレープフルーツジュースの“飲みあわせ” 

山 添  康=文

 やまぞえ やすし

1949年生まれ

東北大学薬学部教授

専門:薬物代謝、毒性学

 同じくすりを飲んでも、“Aさんは効いたのに、Bさんは効かなかった”とその効果に差を感じることがあります。このようなくすりの効き目のばらつきは、主に人の身体の状態や食事、一緒に飲むくすりによって現れることがわかっています。グレープフルーツジュースは、すこし苦み(主にナリンギンという成分に由来する)のある柑橘系飲料で、日本でも消費量の多いフルーツジュースの一つです。グレープフルーツジュースでくすりを飲んだ場合、くすりによっては”薬物相互作用”と呼ばれる飲みあわせの症状が現れ、ときにはくすりの効果が異常に増強したり、予想外の副作用が現れたため問題となっていましたが、私たちはこの原因を最近、突き止めました。

 そもそもグレープフルーツジュースとの”飲みあわせ”は、1990年に米国で高血圧の治療薬を、水、オレンジジュース、あるいはグレープフルーツジュースと一緒に飲んで、その治療効果と血液中に含まれる薬の濃度を測った時に、グレープフルーツジュースでくすりを飲んだ人たちが顕著な血圧降下と高い血中濃度を示したことに端を発しています。

 私たちの検討の結果、これまで知られていなかったグレープフルーツジュースに含まれる物質 (GF‐I‐1とGF‐I‐4) が、くすりを分解 (代謝) する酵素(チトクロームP450 と呼ばれる)を特異的に働かないようにするため、“飲みあわせ”が起こることがわかりまし た。簡単にいうと、通常は飲んだ量の3/4以上が消化管で分解されるようなくすりをグレ ープフルーツジュースと一緒に飲んだとき、このジュースが分解酵素を阻害するため、通常ならば分解されるはずのくすりがそのまま消化管を通過し、このため血液に入るくすりの量が何倍にも増加して、効き目に変化が現れるということになります。したがってこのような“飲みあわせ”は特定のくすりとグレープフルーツジュースの間のみに起こり、すべてのくすりとの間に起こるわけではありません。

 しかしながらコップ一杯のグレープフルーツジュースで起こるので、これによって影響を受けるタイプのくすりを飲む患者さんには、くすりが渡されるときに「グレープフルー ツジュースといっしょに飲まないように」との説明があります。このような指示があった場合には、水または白湯でくすりを飲むことをおすすめします。