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数字に見る東北大学

延べ342名の高校生。卵から孵った?! 科学者の卵たち。

一流研究者が直伝。東北大学の「科学者の卵養成講座」から成果続々。

<多彩な成果のごく一例の紹介>

お名前 在籍高校名(当時) 成果例
阿部翔太くん 福島県立福島高等学校
(平成24年4月東北大学入学)
地域惑星連合大会・高校生ポスターセッション最優秀賞
安東沙綾さん
日置友智くん
山田学倫くん
宮城県仙台第二高等学校
(日置友智くんは平成24年4月東北大学入学)
米国科学専門誌オンライン版への論文掲載、
JST News2012年1月号

※そのほか、大勢の受講生が、優秀な成果を挙げています。一覧表にしていますから、ぜひお確かめください。
  (ここをクリックしてください)



大震災がさらなるバネに。「知の東北大学」は、“未来への責務”として科学好きな高校生への大学挙げての支援に成果。

「東日本大震災の被災地の中核大学として、東北大学は何をなしたか」

同窓生の先輩から、このようなお尋ねを受けることが多いこの1年でした。

筆者は、その問いに、大きく胸を張って、次のように答えることができ、うれしく、誇りに思います。

『たとえば、「科学者の卵」プロジェクトの取り組みを知ってください。東北大学魂は、大震災のあの困難をはね返し、日本の未来を担う高校生たちに、日本のどの大学にもまして真剣に向き合い、鍛え上げるという見事な成果を挙げ続けました。これは、ほんの一例に過ぎません』と。

朝日新聞出版刊行『大学ランキング』で、東北大学が「全国の高校からの大学総合評価8年連続全国と認められたのは、誰もが認める素晴らしい実績の裏づけがあったからでもあります。


青森から鹿児島まで、全国一の応募者と参加者数。一流研究者による全学挙げての取り組みがトップ評価に。

科学技術立国を目指す日本。未来の優秀な科学者を育てるために、日本を代表する大学には、意欲と能力を持つ高校生たちの育成に直接に働きかけてほしい。

東北大学の「科学者の卵 養成講座」とは、独立行政法人科学技術振興機構(以下略称JST)の助成により始まったプロジェクトです。関係する大学は全国で18校ほど。その中でも、東北大学は、カリキュラムの充実と実績などにより、まさにトップクラスの内容と成果であると評判です。いったいなぜなのでしょうか。

『まず、総長名で呼びかけがなされ、実施責任者に、熱意ある木島明博副学長が就任。全学の理系研究科が参画しました。一部局が実施主体の他の大学にはできなかった全学的な取り組みを創りだせたことです。そのため、科学を見る眼を育てるには絶対に必要な多彩で幅の広いカリキュラムを用意することができました。東北大学は、受講生に、まず科学の、広く不思議な世界を知ることが大切なことを、各々の一流研究者からの直接指導と、実際の体験や経験を通じて分かってもらいたいのです。最初から科学の狭い領域での支援は、将来の科学者の卵に発展する大きな可能性を狭めることに成りかねません。そのためにも、参加者定員は毎年100名。他の大学の2倍、3倍もの多さとしました。高校の対象地域も広げ、青森から鹿児島の高校生まで参加しています。いろいろな地域の高校生に出会え、切磋琢磨することもとても大事です。他大学を圧倒する応募者数の多さも特長で、意欲のある優秀な参加者を選抜できました』

プロジェクトの中心を担い活躍する渡辺正夫生命科学研究科教授は、顔をほころばせます。

『JSTのプロジェクトを知って、これだ!とすぐ思いました。実は、私も東北大学の他の先生方も高校などでの出前授業などに熱心に取り組み、アウトリーチ、つまり大学の外の社会で学問の面白さを知ってもらう活動を数多く体験済みです。高校生に科学を見る眼を育てるためのポイントやシステムの必要性はすでに熟知していました。そのための全学で取り組むプロジェクトのプログラムをすでに立案していたほどです。こうした実績が、JSTの公募プロジェクトへのすばやい体制作りや全理系研究科の協力を可能にしたわけです』

渡辺教授は、これまでに200回を越す「出前授業」を、出身校の今治西高校を始め全国の小・中・高校で展開しています。

『実は、以前の私は、このインターネットの時代、学校までわざわざ出かける必要があるのかと思い、そう発言したことがあります。すると、尊敬する先生から、優秀な研究者が実際に子供さんたちの前に直接出かけて話す、このことが大事なのだ。感動がまったく違ってくる。生徒さんたちはとても真剣に受け止めてくれる、と諭されたのです。そこで、私も出前授業を始めてみました。すると本当に楽しいのですね。眼をきらきらさせて熱心に聴き、よく考えては、疑問に思ったことは素直にどんどん質問してくれる。これこそ、科学する眼を育てる直接的な働きかけではないかと実感しました。出前授業の後に生徒さんから手紙をたくさんいただきますし、それらのすべてに返事を書いています。手紙をもらったうれしさとそのお礼です。中には、私が書いた返事の手紙を、自宅の机の前に貼り、励みにしています、などとの内容もあり、私のほうが感激してしまうほどです。日本の若者や子どもたちの科学離れをただ嘆く前に、私たち大学の研究者自身が彼らたちに直に働きかけることからまずは具体的に行動しよう。このような思いがさらに強くなったときに、JSTのプロジェクトが始まったのです。まさに、私たちが求めていた内容でした』

渡辺教授は、アブラナ科植物の研究で一流の科学専門誌「サイエンス」や「ネイチャー」に論文が何度も掲載されている世界最先端の研究者です。同じような、国際水準の各理系研究科の研究者が、いわばボランティア精神で、「科学者の卵 養成講座」の担当を買ってでています。工学研究科の安藤晃教授(宇宙・プラズマ科学)、農学研究科の伊藤幸博准教授(応用分子細胞生物学)、理学研究科の久利美和助教(科学教育)、生命科学研究科の日出間純准教授(臨界環境遺伝生態分野)などの研究者たちです。

世界最先端の研究の現場である東北大学と直接に交流できる好機と、高校の先生方や生徒たちが喜び、大勢の応募があったことは当然でもありました。

『受講生の月一回の東北大学での講座出席の交通費は原則として全額を大学が負担しています。これだけで、実はJSTの助成金額を使い切ってしまうほどです。「科学者の卵 養成講座」には、東北大学執行部の特段の予算の配慮があり、受講者は、安心して参加できることになりました。講座担当の研究者の方がたには、世界と競争する研究を続けながら、日本の未来のための科学者の卵養成にまさにボランティア精神で取り組んでいただいています。受講生は、そのことを察しているようでたいへん意欲的です。厳しいカリキュラム内容なのですが、「科学者の卵 養成講座」で東北大学に来ることを本当に楽しみにしています』


「基礎コース」、「発展コース」、「エクステンドコース」と、東北大学が高校生をきめ細かく支援。

「科学者の卵 養成講座」は、高校1・2年生を主な対象に「基礎コース70名」、「発展コース30名」、「エクステンドコース」の三つからなります。渡辺教授の内容説明を要約しましょう。

「基礎コース」は、さまざまな科学分野からの特別講義が中心です。いろいろな分野の特別講義を直接聴くことで、狭い領域にとらわれず、広い視点からのアプローチを駆使し、新しい科学者に発展する基本を身につけてもらうことが狙いです。先端的な研究者から特別講義を90分、その直後の30分でレポートを書き上げて提出。一ヵ月後には、一人ひとりに赤ペンで担当研究者が直々に書いた添削やコメントつきで返されます。研究者にはたいへんな負担なはずです。それを、担当教員全員が高校生のためにしてくれている。何事にも愚直なまでに真剣な東北大学精神は健在でした。受講生はその返されたレポート内容で自分の理解度や思考の問題点を理解できます。コメントで誉められていると本当にうれしそうです。毎回30分で内容をレポートに纏めますから、思考が整理され、論理的な文章力が養われます。担当研究者は、レポート内容で参加者の能力と意欲を探ります。

「発展コース」は、「基礎コース」のレポートを基に、30名を2回に分けて15名ずつを選考。1回目には選ばれなくても、その後の努力次第で2回目に選ばれる余地を残し、さらなる意欲の向上を目指しています。このコースは、2、3名がグループを組んで実際の東北大学の研究室での実習体験が行われます。高校の休暇中に実施され、研究室の一員となったような扱いを受けます。大学院生からの指導や助言、さらには研究生活や学生生活の実体験を親しく聞き出すチャンスでしょう。研究の成果のプレゼンテーションも行います。まさに、小さな学会発表を体験するようなもの。発表するには、すでに先行の研究で発表されたものでないかの確認も必要です。高校生のうちから、英語の科学論文を読む力が科学者には求められることに気付く、良いきっかけともなっています。

「エクステンドコース」は、「発展コース」受講者から参加希望を募り、どのような分野で研究したいかを調査した上で選抜。希望する分野の研究室で、1年にわたり、さらに緻密な実験・研究を行うものです。言ってみれば、高校生の立場で研究室に配属されたようなもの。これはたいへんな憧れの的です。研究生活の一端を内部から体験でき、東北大学の最新の研究施設と一流の研究者の指導の下に自分の実験・研究をさらに深めることができます。課題を発見し、解決できる「科学者の眼」が養成されることでしょう。


1年間の研究の総括「プレゼン会議」。科学する喜びにあふれた高校生たちの真剣な質疑応答。

平成24年3月18日の片平キャンパス「さくらホール」は、130名を越す若者たちの熱気と緊張感に満ちあふれていました。平成23年度の「科学者の卵 養成講座」のプレゼン会議の出席者たちです。そのほか、大学院生などの東北大学関係者や高校教諭、保護者の姿も大勢見かけました。木島副学長は挨拶で『人に説明してこそ、自分の理解度が分かる』と受講生に檄。

内容は、学会と同じく、口頭発表とポスター発表に別れます。口頭発表の皆さんは、パワーポイントを駆使、2、3名のグループで一人ひとりが説明。時間厳守の注意が飛び、質問がつぎつぎに浴びせられます。まさに、学会発表の雰囲気そのものです。

よく質問をしていた中の一人が藤田琴実さん。てきぱきと的確な質問に大学院生かと思いきやなんと「科学者の卵 養成講座」の出身者。この3月に浦和第一女子高を卒業したばかりでした。

『疑問に感じたことはできるだけすぐ質問するようにしています。質問は、自分の理解が深まるだけでなく、発表者の勉強にもなると東北大学の先生から教えられました。今日は高校の後輩が発表したので力が入りました。後輩は、最優秀賞を受賞。嬉しいです』と、にこり。ちなみに後輩たちの木下祐紀さん、小川萌菜さんの発表内容は「納豆の糸が消える? ―糸切れを引き起こすバクテリオファジー」。筆者も興味津々の優れた発表でした。藤田さんは東北大学の浅虫海洋生物学教育研究センターを訪れ、生物が好きと再認識。東北大学農学部にこの春入学しました。

同じくこの春東北大学工学部に入学した阿部翔太くんは、大活躍した受講生の一人です。

『「科学者の卵 養成講座」では、いろいろの科学分野が学べるのが面白いし、ためになります。東北大学との関係が強くなることで、自分の関心のある研究が深められるのはもちろん、発表の機会をたくさん得られ、たいへん勉強になりました。地域惑星連合大会で高校生ポスター発表の最優秀賞などをいただきました。他の県の高校生とも親しくなれます。たとえば仙台二高の日置さんと同じ研究をしたり、議論をしたり、とても刺激になっています。将来は、フランスのITER計画(国際熱核融合実験炉)で研究したいです』と未来の大きな目標へ向ってすでに着々と努力中です。

上澤知洋くんは、盛岡第一高校から農学部に入学した受講生です。

『「科学者の卵 養成講座」のことは、ホームルームでの呼びかけで知りました。東北大学に興味があったので早速応募。毎月1回の講義が、楽しみで、楽しみで。講義の後のレポートは、できるだけ自分の生活に結びつけた観点で纏めていました。そのことを、先生の添削で、とても面白いと誉めていただき、うれしかったですね。今回の大震災でさらに感じたことですが、将来の食糧危機が確実視されている現在、私たちにできることは科学の力で、安全で充分な量の食糧となる植物を開発することではないでしょうか。これは、発展途上国はもちろん先進国でも共通する課題です。そのことに役に立つ科学者、リードする人物になりたいと思います』

なんとたくましく、志の高い上澤くんの心意気ではないでしょうか。

福島高校の大山のぞみさんは、「基礎コース」で着実に力をつけた受講生の一人です。

『私の高校では、「科学者の卵 養成講座」に参加する人が多いんです。渡辺正夫先生が来校されて説明。福島高校の先生方も熱心ですし、先輩も大勢参加。内容は難しかったのですが1年から参加しました。科学や考えることが好きなのです。受講体験をぜひ自分の将来に生かしたいと思っています。講義直後のレポートで、パラドクスについて自分の推論を加えて書いたらとても高い評価を受け、考えることがいっそう楽しくなりました。福島高校では阿部翔太さんの素晴らしい研究があります。その後を引き継いで発展した勉強ができればと考えています』

西和賀高校出身の高橋大樹くんは、工学部に入学しました。

『「基礎講座」のレポートでは、最初はどう書けばよいのかパニックになったほどです。いろいろの科学分野の講義を受けるうちに自分の視野が広がったのでしょうか。そのうちに30分の時間内に自分の考えを入れて纏められるようになり、先生からの添削やコメントが待ち遠しくなりました。おかげで東北大学AO入試のⅡ期で、早々と東北大学に合格できました』

もちろん「科学者の卵 養成講座」は、東北大学入学希望者に限られたものではありません。プレゼン会議の会場に早い時刻に到着、寸暇を惜しむかのように持参の学術書を読み出したO.Sくん。この春、地元の国立大学の工学部に入学した養成講座の修了生です。

『僕の高校からの参加は私一人でした。2年間通いましたが、毎回他の県の高校生たちと一緒に東北大学の先生方の講義が聞けて、本当に楽しかったです。大学院での研究は東北大学で、と決意しています』

「科学者の卵 養成講座」の目的は、まさに着々と実現しつつあるようです。


『「科学者の卵 養成講座」のプロジェクトを止めることになれば、高校側の評価が高かったぶん東北大学への失望が大きくなるのではと心配』。高校教諭からの率直な助言。

教え子たちのプレゼンでの発表を見に来た福島高校の橋爪清成先生は、東北大学理学部卒の同窓生です。

『「科学者の卵 養成講座」のプロジェクトで、高校と大学の交流が、これまでのパンフレットなどを通じた関係からダイレクトな、システム的な交流になりました。高校・大学連携のモデルといってよい関係になってきたのです。東北大学の存在がたいへん身近になりました。

参加した生徒はもちろん高校の教諭側も、東北大学の先生方とのやり取りが普通のことになっています。

生徒たちは、他県や関東の高校生たちと切磋琢磨でき、とても良い刺激になっていると実感しています。

いま、高校には、いろいろのプロジェクトが提案されてきています。その中でも、正直な話し、東北大学の「科学者の卵 養成講座」は、目的、目標が明確、最もレベルの高い素晴らしい内容と高校側は一致した認識を持っています。

それだけに、JSTの助成がなくなる今後の東北大学の取り組みが気になって仕方ありません。もし、「科学者の卵 養成講座」を止めるようなことになったなら、非常に残念でもったいないことです。日本の未来に貢献する、全国的に高い評価を受けたプロジェクトを、助成がなくなったから止めますでは、東北大学の見識が疑われかねません。もし中止になったら、高校側の評価が高かった分、よけいに東北大学への失望が生まれ、かえって大きなマイナス評価になるのでは、とも心配しています。東北大学は母校だけに、こんなことになることはなんとしても避けてもらいたい。ぜひ、長期的な視点から継続、発展させていただきたいとお願いしたいのです』

この発言は、奇しくも渡辺教授の「科学者の卵 養成講座」の今後への懸念を裏付けるものとなってしまいました。

これを、別の側面から見れば、JSTの助成期間終了にも関わらず、東北大学が「科学者の卵 養成講座」を継続、発展させることになれば、高校側からは他の大学を圧倒する賞賛と高・大連携の成功例としての大きな支援を得られる、ということを意味するのではないでしょうか。

北海道大学では、「アウトリーチセンター」が設置されている時代です。もっとも実績のある東北大学ができないはずがありません。


『東北大学科学者のたまご養成講座の成果は、今ではなく、必ず私たち受講生が将来証明していきたいと思います』。

渡辺教授宛ての、受講の高校生からの1通のメールの文面の一部です。

このメールの内容自体が、「科学者の卵 養成講座」の果たしてきた実績と役割を、何よりも雄弁に証明してくれるのではないでしょうか。

『受講生の諸君と、将来に学会で再び出会い、共同研究者として互いに切磋琢磨し、研究成果を挙げる。それがいまの私の夢です』と語る渡辺正夫教授。この夢は、きっと近い将来に実現するに違いありません。

そのためにも、「科学者の卵 養成講座」が果たした見事な実績と充実したカリキュラムを継続、発展させることが急務でしょう。このことは、東北大学の、今回の大震災被災を、“教育被災”や“未来被災”にしないためにも、もっとも大学らしいオーソドックスな内容の意欲的な未来貢献、社会貢献になるのではないでしょうか。

黄金色の稲穂づくりも、“苗と苗代づくり”が大事なのと同じことです。

全学を横断する諸先生方の熱意と努力、さらには手弁当での取り組みを、システムとして組織的に発展させ、日本の誇る「東北大学方式・科学者の卵養成モデル」を定着させる。

同窓生や萩友会会員から、まさに母校東北大学らしい取り組みと大きな賛同が得られるに違いありません。

とにかく、こんな内容のメールを出してくれる受講生を輩出している「科学者の卵 養成講座」、これは、日本の希望ではありませんか。


※実は、取材の後日談があります。この文章の編集中に、「科学者の卵養成講座」がJSTから「次世代科学者育成プログラム」に採択、とのうれしいニュースが届きました。この採択は1年限りですが、東北大学からのサポートも継続され、すこし形を変えながら実施されることになりました。内心ほっといたしましたが、1年と限らずに継続され、今まで以上に大きく発展してほしいと切に願っています。




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