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インタビュー

小谷 元子(こたに もとこ)教授
2006年秋発行号(第5号)掲載 東北大学大学院理学研究科 数学専攻  小谷 元子 (こたに もとこ)教授


始まった、東北大学の女性科学者支援

アイデンティティは幾何学者

私の専門は数学で、図形の形を研究する幾何学を特に専門としております。猿橋賞を頂いた「離散幾何解析学による結晶格子の研究」は、元々物理などから派生した解析学の問題を幾何学者の観点から扱ったもので、数理物理学者の方と共同研究をしたり、討論をして刺激を受けることで、問題が発展させることも多いですが、やはり自分の観点や、問題意識や価値観は幾何学にあるようです。

離散幾何解析学とは

the leading edge |  理学研究科 小谷元子 教授 幾何学では図形の対称性を大切に考えています。左右対称、回転対称など対称性が高い図形は、理想的な自然現象に多くみられる安定して調和のとれた状態です。結晶に見られる周期性の概念をも含むように、この「対称性」を抽象化した数学の言葉が「群」で、19世紀にクラインが「幾何学とは群に注目して研究する学問である」と述べたことは有名です。私は、幾何学的な視点で離散群を研究するために、周期性を持つ図形上のランダム・ウォークの挙動を研究しています。

研究の醍醐味は、日々事象を観察していくなかで、ある方向性がもやもやと見えてきて、それがある日、「あ、こういうことだったのか」と腑に落ちる、その瞬間にあります。特に数学では、新しい概念を定式化し言葉を与えることで、飛躍的に現象の理解が進むことが多いのですが、幾何学は、この「言葉」を人間の直感に合う形で与えることを得意としています。

女性にお勧めの学問「数学」

数学は理論系の学問であり、紙と鉛筆があればどこでも研究できる学問です。女性であることがあまりハンディキャップになりません。基本的に個人で研究するため、自分で時間のコントロールができますし、実験室に長時間しばられることもありません。独創的な発想ということが最も重要であり、私自身はこれまでずっと自由に研究を続けることができましたし、自分が「女性」科学者であるということを意識することは、ごく最近までありませんでした。

女性科学者支援の必要性 「杜の都女性科学者ハードリング支援事業」(注1)

(注1)「杜の都女性科学者ハードリング支援事業」
     http://www.morihime.tohoku.ac.jp/

平成18年度から始まった文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」に採択された東北大学の女性科学者支援事業。女性科学者が、キャリアパスにおける様々なハードルを乗り越えるため、「(1)育児・介護支援」「(2)環境整備」「(3)次世代支援」の3つのプログラムを柱に全学的に展開するものである。

未来の女性科学者を支援する 「サイエンスエンジェル制度」(注2)

「サイエンスエンジェル制度」は「杜の都女性科学者ハードリング支援事業」の三本柱の一つ「次世代支援」プログラムで、東北大学の特徴が最もよく出ている制度です。

未来の女性科学者支援を目的として、自然科学系の9研究科5研究所に在籍する女子大学院生の中から任命した、39名の初代サイエンスエンジェルが10月1日から正式に活動を始めています。

女性科学者の卵である、熱意と強い使命感を持った女子院生が、「科学って面白い」「女性であることや環境で、自分がやりたいことを諦める必要はない」というメッセージを、理系志望の女子中学生・高校生などの若い世代に伝えてくれることを期待しています。

また、自然科学系14部局に原則1名以上のサイエンスエンジェルを配し、サイエンスエンジェル達のネットワーク、彼女たちをコアとした部局内のネットワーク、それをまとめた自然科学系部局全体の女性科学者や女子院生のネットワークを構築します。更に、人文社会系を加えた女性研究者のフォーラムも考えています。

(注2)「サイエンスエンジェル制度」
「杜の都女性科学者ハードリング支援事業」のうちの次世代支援プログラム。
博士課程進学の女子学生支援や研究者を志す女子学生啓発のための制度で、女子高校生や女子大学生に対して、女性科学者ロールモデルとしての活動を期待するものである。

育児も研究も諦めない 「育児と研究の両立支援」(注3)

杜の都女性科学者ハードリング支援事業のロゴ 女性科学者にとって最も高いハードルはどのようにして育児期間中の研究を継続していくかということだと思いますが、同時に研究室にとっても「チームに育児期間中の女性がいた場合、どのようにして研究のアクティビティを維持するか」がネックになっているようです。
 育児休業を利用するという手段もありますが、年単位で研究から離れると復帰が不安になるかもしれません。女性研究者が、育児も研究も諦めないで活躍していける支援システム、それがこの「育児・介護支援」です。研究を中断する育児休業だけではなく、育児をしながら研究も続けている教員に対しても人的支援をし、それによって女性の負担を減らしつつ、同時に研究室のアクティビティ維持への不安を解消する、そういったことを目標にしています。
 具体的なプログラムとしては、研究・教育の補佐をする支援要員の配置、ベビーシッター利用、短時間勤務制度、育児を考慮した研究評価制度の検討などがあります。

残念ながらこれらの制度はまだよく周知されていないようです。ニーズのある方にシステムを理解していただいて、ぜひ利用してほしいと考えています。「育児中」ということに敢えて定義を与えず、優先度が高い方から利用できるという自由度の高いシステムなので、小学校低学年児をもたれている方も遠慮せず、再募集の際には応募してください。

また、この制度の対象は、現在は女性ですが、学内の男性研究者、男性職員にも関心を持ってほしいと考えています。育児や介護は男性・女性が協力して行っていくものです。この事業は、恒常的な制度として大学で継続していくものですから、特に研究室を運営する方に、優秀な人的資源を活用する制度ができつつあることを十分に理解し、積極的に人材育成を進めていただきたいと思っています。

(注3)「育児と研究の両立支援」
女性科学者の「研究生活と、出産と育児・介護との両立」を支援するプログラム。短時間勤務や育児休業制度の弾力的運用を検討、試行および実施を行う。また、育児・介護との両立を考慮した研究・教育業績評価制度についても検討し、提案する。両立支援推進のため支援要員(授業代講非常勤講師、実験補助者等)を配置するとともに、ベビーシッター経費を支給する。

東北大学同窓生へのメッセージ

科学や研究においては、個性や独創性が最も大切だと考えています。研究というものはステレオタイプの思考を超越したところにあり、今まで誰も気がつかなかった独創的な方向や視点がなければ、科学は発達しません.
 私が東北大学で最も気に入っているのは、自由で独自の興味を育てることを重んじる雰囲気です。
 研究者全員が、時流を追いかける研究や、結果が出やすい研究を求めたら、そのような研究は長い歴史の中に飲み込まれてしまうに違いありません。自分が本当に面白いと思ったことを、十分に時間をかけて熟成させ追究できる東北大学の自由でゆったりした雰囲気が、研究する上で非常に大切だと感じています。
 そのような東北大学の素晴らしい雰囲気や校風を守り、社会で活躍する優秀な人材を育て。また東北大学の研究の成果を社会に豊かにする形で還元して欲しいと願っています。




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