地域と大学 公共政策大学院で思うこと

ハーバード大学と地域社会…
仙台では?

 米国東部のハーバード大学に留学した折、大学と地域社会の深い関わりは印象的でした。地元ケンブリッジの町は、大学を地域の誇りとして支援し、大学側も、地域にさまざまな貢献をしていました。町名は、大学創立二年後の一六三八年、英国ケンブリッジ大学のある町に因む命名で、大学と共に歩む姿勢が窺えます。以来、町と大学は、協力関係の中で、共に発展して来ました。仙台は大きな町で、東北大学は国立、起源も別々ですから、ハーバード(私立)と地元の町の関係とは少し趣が異なりますが、さまざまな形で協力し合っています。

公共政策大学院では?…
地域と密接に協力

 東北大学の公共政策大学院は、国や地方の公共的な政策の企画・立案に専門性を有する人材等の育成を目指し、二〇〇四年に発足しましたが、その目的からも、地域との密接な連携を重視しています。他の「公共政策大学院」に比べ、ワークショップ(WS)という、実務、実地研究志向の大型ゼミを重視する特長があり、それに魅かれ、全国から入学者が集まります。WSでは、仙台市や宮城県等の御協力を頂いて研究や調査を行うことも多く、地域の方々と交流することも度々です。一年間の成果は、提携・協力して下さった県や市へ、政策提言として報告もします。他に、特に仙台市からは、政策の企画・立案能力を養成する、院生の研修に特別な御協力を頂くなど、地域とはさまざまな協力関係にあります。

上海の福島県事務所を訪問。所長(前列中央)とWSの院生達、松江市の訪問調査で、松浦正敬市長を囲んで

地域との協力、協働関係の例…
自治体の国際交流事業の重要性を再評価

 私が二〇一〇年度担当した、WSのグループは、地方自治体の国際交流事業を、日本の対外関係の重要部分を成し、地域の振興にも役立つ意義深いものとして改めて評価し、その維持、強化を提言することをテーマとしました。対中国事業を中心に、活動実績の多い福島県と島根県松江市を主な提携先として、八人の院生が、県庁、市役所の訪問、市長など幹部への表敬、担当の方々との面談と意見交換などを行い、さらに、仙台市他の自治体からもお話を伺って報告書をまとめました。この作業自体が地域と地方自治体の方々との協力、交流であり、私たちは多くを学び、また楽しみましたが、結論の提言部分は、提携した福島県、松江市の他、御協力下さった仙台市と他の自治体、地域の皆様にも御参照頂ければ、私たちから地域へのささやかな貢献にもなり得るかと期待しています。

中国で、日本の自治体の努力を検証

 研究の一環として中国も訪問し、福島県、松江市などの自治体が国際交流事業を行う上海や杭州市で、事業の意義、成果を検証しました。福島県の上海事務所は、県レベルの在中国事務所では最大級で、福島のPRや観光客の誘致、各種の交流事業などに奮闘中でした。中国側も日本の自治体の事業を高く評価していました。地域の振興に関わる研究テーマを選び、自治体の努力を紹介・評価できて良かったと思います。最近、日本人の内向き化が指摘され、自治体の国際事業も減少気味ですが、日本の「国際」度は、決して高くはなく、自治体による事業が、地域住民の努力と併せ、一層盛んになるよう願っています。

東北大学の社会的使命

 東北大学は世界有数の大学で、特に理工系の業績は知られていますが、歴史的には、大学は人文主義的な学問研究を重視したものであり、今日でも、その分野は非常に重要だと思います。私は、大学と地域社会の間で、人間や社会のあり方、世界との関わり、といった本源的な問題に関し、さまざまな協力、協働の努力が行われるよう願っています。

橋本 逸男(はしもと いつお)

橋本 逸男(はしもと いつお)
1948年生まれ
現職/東北大学大学院法学研究科
   教授(公共法政策担当)
   外務省出身
専門/対外政策(外交論、中国、ASEAN等)
公共政策大学院ホームページ/ http://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/



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