高齢化の中の地域経済・財政に関わって
佐々木 伯朗=文
text by Norio Sasaki

 日本は現在急速な人口の高齢化の過程にあります。政府の将来予測では、2010年には総人口の4分の1が、2020年には3分の1が65歳以上になるとされています。こうした「超高齢化」は、都市部よりも地方においてより進行している状況にあります。このような中で経済や社会の活力をどのように維持していくかという問題は、非常に重要です。その政策課題に応えることを目的として、1997年度に現代応用経済科学専攻が大学院経済学研究科に設置されました。以来、福祉や医療、公共経済の専門の研究者が、福祉制度の国際比較、地域の医療福祉システムの最適な設計、高齢化が経済活動に及ぼす効果の定量的把握などについて研究活動や社会活動を重ね、多くのアウトプットを生み出してきました(2005年度より経済経営専攻に改組)。
 私の専門は財政学ですが、現代応用経済科学専攻のスタッフの一人として、福祉と財政、とりわけ、介護保険が地域経済や地方財政に及ぼす影響、をテーマとして研究を続けてきました。介護保険がスタートした2000年度から2002年度までは、保険が導入されて以降の市町村財政の変化について、東北地方の市町村を中心にアンケートを用いた調査を実施しました。また、2003年度以降は、介護保険およびそれを財源とする福祉サービスが地域経済に与える効果について研究してきました。そこでは、介護保険が地域経済や地方財政に及ぼす影響は、人口規模や高齢化率などの地域の特性によって異なることが明らかとなりました。

 介護保険は、進行する高齢化のもとで要介護のリスクを共同で負担する制度ですが、同時にサービス事業者を民間にも拡大して全体のサービスを増やす政策意図も持っています。これによる効果としては、家族の介護負担が軽減される一方、サービスの拡大に対応したマンパワーなどの雇用の増大があります。それ以外には、介護サービス事業者への支払いが関連企業へと波及し、経済全体の需要が増大する効果があります。これらの効果は、保険を通じた地域経済の循環的な関係として示すことができます(図参照)。
 福祉は労働集約的な産業といえるので、消費を通じた波及効果は公共事業に劣らないとする研究も多くあります。もちろん、このような効果の前提として、適正な介護サービスが提供される必要があることは言うまでもありません。地方自治体の役割としては、こうした波及効果があることを念頭におきつつ、介護保険事業計画や高齢者保健福祉計画などの行政計画を適切に作成し、運用していくことが重要です。
 私がこれまで介護保険の研究に関わってきた中で、多くの事業者、行政担当者、ボランティア、学生などの協力を得ましたが、それぞれの人が皆、熱意を持って自分の仕事に励んでいる姿には常に啓発されてきました。私も現在、仙台市の社会福祉審議会で委員として、2006年度から新たにスタートする高齢者保健福祉計画の策定のお手伝いをしています。東北地域の経済が、人口の高齢化に適応した形で、さらに発展していくことを願っています。

 

ささき のりお

1966年生まれ
現職:東北大学大学院経済学研究科助教授
専門:財政学

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