大学人として参画した「農」の世界の構造改革
工藤 昭彦=文
text by Akihiko Kudo

 世の中至る所構造改革の嵐が吹き荒れています。一見のどかな田園風景に包まれた「農」の世界もまた例外ではありません。車窓に広がる実りの秋の水田から、斑点のように黄金色が消失するようになってからしばらく経ちました。お米の過剰が続く中、今では東京都の面積のおよそ5倍にも相当する百万ヘクタール以上もの水田がお米作りから撤退を余儀なくされています。
 お米が余る一方で、海外からの農産物輸入は激増し、わが国の食料自給率はカロリーベースで40%と、先進国の中でもとりわけ低い水準に落ち込んでしまいました。高齢化が進み農業の担い手不足も深刻です。水田農業の抜本的な構造改革はもはや避けられないにも関わらず、改革の動きは遅々として進んでおりません。
 私自身これまで数多くの農村現場に出向いて実態調査を行い、その成果を研究論文にまとめてきました。その過程で、水田農業の構造改革には、何よりもまず農村現場に適合的な実効性のあるシナリオ作りが必要だと思うようになりました。そんなことを考えていた矢先、仙台市をはじめ多賀城市、松島町など三市三町にまたがるJA仙台から、「21世紀水田農業チャレンジプラン」づくりのまとめ役として協力して欲しいと頼まれました。
 最初に要望されたのは、研究者の目から見て何をどう改革していけばいいか、まずはその見取り図を示して欲しいということでした。即座に日頃考えている改革プランを提案しましたが、その後、関係者に納得してもらうのに膨大な時間を割かれることになりました。私の提案に、定住社会の人々の永い営みが投影されている岩盤とでもいうべき農業集落を、水田面積100ヘクタール以上の新しい地域組織に再編成するという内容が含まれていたからです。

テナントベル型農業のイメージ図

 結果的にそれが了解されたのは、近い将来、大規模農場制農業に移行せざる得ないとすれば、ダイナミックな集落再編が必要だろうとの共通理解を得ることができたからです。具体的には現在約300ある農業集落を60程度の大規模地域組織に再編成するプランをとりまとめ、一斉に新しい組織作りが始まりました。
 構造改革のシナリオは少し複雑ですが、差し当たり新しい地域組織単位に、お米に限らず麦、大豆、野菜などを、環境にやさしい技術を駆使して最も効率的に生産するための地域営農組織を立ち上げることにしました。
 水田を、イメージ図に示したように大小さまざま仕切られたテナントビルのように計画的に利用していくために、農地利用改革を推進する体制整備も始まりました。ファーマーズ・マーケットや農家レストランなど多様な農村地域ビジネスの振興などもプランの中に盛り込みました。
 改革はいずれも緒についたばかりであり、これからも必要に応じて手直しを加えていかざるをえないでしょう。
 「農」の世界の構造改革に参画した以上、大学人としてささやかながらもこうした地域連携活動に、これからも取り組んでいきたいと考えています。

 

くどう あきひこ

1946年生まれ
現職:東北大学大学院農学研究科 教授
専門:農業経済学

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