国際化に向けて、学生諸君へ


仁田 新一=文
text by Shin-ichi Nitta

 2002年の8月で、私は国際人工臓器学会の2年にわたるpresidency(理事長職)を終えました。その前の2年間のpresident elect(次期理事長内定)の期間を含めると4年間、国際学会のまとめ役を果たしたことになります。この間に最も心を砕いたのは、各国間や地域の異なった価値観にいかに的確に対応するかでした。もちろん、発展途上の国々に対する心配りも極めて大切なのは当然です。かくいう価値観の違いは、風土、伝統、文明など各民族が受け継いできたものと、個人の経験、境遇などさまざまな因子が複雑にからみあっています。確かに、後者は同じ日本人でも多少の違いはあります。しかし、前者は直接相手と接触して、しかもかなり深刻な問題解決に一緒に取り組むことで初めて理解することになります。
 私の経験の一例を挙げると、理事会で学会の将来の方向などの難しい問題を決める前日は、ポケットマネーをはたいて、主だった各国の代表理事と一緒に飲んだりして、日本式のいわゆるかなり良いムードで一緒に過ごします。とはいえ、こうした時間を共有しても、大部分の外国人にはそこで話されたことは一切当てにならないことが分かり、日本人にとっては何となく裏切られた気持ちすらしてきます。昨晩あんなにこの問題について真剣に話し合ったのに、などと彼らを問い詰めると、怪訝そうな顔をすることがよくあります。彼等にとっては交渉事ですので、刻々と事態が変化するのだから、有利な方向に意見を変えて行くのは当然だという訳ですが、どうも釈然としません。
 しかし、さまざまな経験をするにつれ、これらの価値観に大きな違いがあることが理解できるようになります。すると、どのように対応すれば良いのかが容易に想像できるので、行動がかなり楽になってきます。いわゆる、国際間の交流を肌で感じた学習効果がでてくるわけです。もし、これらの経験と学習とが、子供の時、または学生時代に体得できていたら、もっと効率良く国際的なまとめ役を果たせたのではないか、と残念に思うことが度々あります。

 日本人によくある「許容範囲内であれば相手に譲ることを美徳とする」というのは、外国人にとっても日本人にとっても決して良いことではありません。特に、日本が世界の中で何らかの期待をされるのであれば尚更、いたずらに譲らずにその主義主張を通すことが、人類の将来につながる事例が多々あるものと理解されるべきです。これは、国際政治の舞台にもそのままあてはまります。これからは日本単独の価値観のみで行動していたのでは、世界の中ではその存在価値が失われるのは当然です。
 学生時代からいろいろな形で国際間の交流を経験し、価値観の大きく異なる世界の中で、日本に何が期待されているのかをよく認識して行動できるような教育を、もっと大胆に進めるべきであると考えます。文系・理系を問わず、学生諸君にも、特に国際的な活躍を望んでいる人には進んで外国に行って、彼らとその風土の中で直接付き合って欲しいものです。東北大学としても諸外国の優秀な人材にできるだけ数多く参加してもらうよう、大学間協定をはじめ、外国の大学での拠点づくりを始めています。また、ユニバーシティーハウス構想の中での主要な構成メンバーとして外国人留学生を考えており、画期的な研究を本学から発信していく体制づくりの努力を重ねています。世界的な頭脳が集まる、地域に根ざした魅力あふれた東北大学を現実のものにすることをめざして、英知と努力を結集する地歩を着実に固めていきたいものです。


にった しんいち

1939年生まれ
現職:東北大学
   加齢医学研究所 教授
専門:循環器病学,医用生体工学



I N F O R M A T I O N
総合学術博物館公開講座「自然史探訪」のお知らせ

 東北大学総合学術博物館では、今年度の市民向け公開講座(全5回)を2003年2月〜3月の土曜日に開催する予定です。
 今年度は“かたち”をテーマとし、自然や社会、文化に見られるいろいろな“かたち”にまつわる話題について、博物館の標本との関わりも含めてお話いただく予定です。どうぞふるってご参加ください。

●日 程:平成15年2月15日(土)〜 3月15日(土)
●会 場:理学部合同研究棟二階・第三講義室
●講 師:第1回 2月15日(土)鈴木 三男 (東北大学総合学術博物館長)
     第2回 2月22日(土)永広 昌之 (東北大学総合学術博物館教授)
     第3回 3月 1 日(土)田村 俊和 (立正大学地球環境科学部教授)
     第4回 3月 8 日(土)有賀 祥隆 (東北大学文学研究科教授)
     第5回 3月15日(土)須藤  隆 (東北大学文学研究科教授)
●無 料
●問合せ先:東北大学総合学術博物館
(仙台市青葉区荒巻字青葉 tel 022-217-6768)

 


ページの先頭へ戻る