地球の「温暖化」を考える

京都会議を経て世界の状況を確かめた今、展望できることとは?

  田 中 正 之=文

たなか まさゆき

1935年生まれ

東北大学大学院理学研究科教授

専門:気象学・大気物理学

 最近、地球温暖化をはじめとする地球環境問題が大きな政治・社会問題となっています。とりわけ、昨年12月に京都で開催された第3回国連気候変動枠組み条約締約国会議(いわゆる温暖化防止京都会議)を契機に、地球温暖化問題への内外の関心は一段と高まっています。

地球温暖化現象のしくみ

 地球温暖化は、人間活動によって大気中の二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロンガスなどの気体成分が増加するために起こる現象です。これらの気体成分は、温室効果ガスと呼ばれ、いずれも赤外線を強く吸収する性質をもっています。

 地球の温度は太陽光の吸収による加熱作用と、地球(地表面や大気)が宇宙空間に赤外線を放出することによる冷却作用の釣り合いによって決まります。仮に、太陽光の吸収が赤外線の放出より多ければ、地球は、赤外線の放出量が太陽光の吸収量と等しくなるまで加熱されます。また逆に、太陽光の吸収が赤外線の放出より少なければ、両者が一致するまで地球冷却されます。大気に温室効果ガスを加えると、高温の地表面や下層大気からの赤外線が途中の大気層で吸収されるため、宇宙空間に放出される赤外線量が減少し、加熱作用の方が強い状態となって温暖化が起こるわけです。

温室効果ガスと温暖化の関係

 人間活動による二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素などの増加は、18世紀後半の産業革命期から始まっています。各温室効果ガスの濃度は、産業革命以前と現在では、別表のような変化が見られます。フロンガスは、天然には存在せず、人間が工業的につくり出したもので、その使用が本格化した第二次大戦後に急増したものです。

 現在の濃度は、最も量の多いフロン12が525pptv、2番目に多いフロン11が275pptv(pptvは乾燥空気に対する体積比で1兆分の1)などとなっています。これらの濃度単位から明らかなように、温室効果ガスは大気中にごく微量しか存在しない成分ですが、その量の変化が地球の気候や環境に深刻な影響を与えるということは驚くべきことです。私たちが享受している地球の環境は、それほど微妙なバランスの上に成り立っているということです。

 産業革命から現在までの、各温室効果ガスの地球温暖化への寄与率は、二酸化炭素が64%、メタンが19%、亜酸化窒素が6%、フロンガスが10%、その他が1%と見積もられています。

 組織的な気象観測が行われるようになった最近約百年間のデ−タによれば、日本では年平均気温が約1℃、地球全体では年平均気温が約0.6℃上昇しています。年配の人たちがよく、子供の頃に比べて最近は冬がしのぎやすくなったことを口にされますが、実際に温暖化は進行しています。気候が温暖化する場合、その影響は高緯度地方の冬場に特に顕著に現れることが知られていますが、実際にそのとおりのことが起こっています。問題は、この温暖化が果たして人間活動による温室効果ガスの増加によるものかどうかということです。気候はさまざまな原因で自然に変動する性質があり、温暖化予測理論にも多々不備な点があるため、多くの論議をよんできました。しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最近の検討によれば、現時点で最善と考えられる理論予測と観測結果の間にはよい一致が見られるという結果が得られています。これにより、過去約百年間の温暖化傾向の主たる原因は、温室効果ガスの増加にあるとする考え方が大勢となっています。気温の上昇と平行して、海水位も過去百年間に約15cm上昇しています。その原因は、ヨ−ロッパ・アルプス等の山岳氷河や氷冠の融解、および温度上昇に伴う海水の熱膨張に求められています。

課題が山積みの将来予測

 地球温暖化が将来どのように進行するかを正確に予測することは、きわめて難しい問題です。21世紀末に世界人口は113億人となり、21世紀の経済成長率は平均して年2.3%とするIPCCの標準シナリオによると、二酸化炭素濃度は21世紀の間に倍増して700ppmvとなり、メタンその他も増加して、地球全体の平均(地表)気温は現在よりさらに2〜2.5℃上昇し、海水位も50〜60cm上昇すると予測されます。

 このような、超高温気候は、今から12万年から13万年前の石器時代を除けば、人類がかつて経験したことのないもので、私たちの生活に重大な影響を及ぼすものと懸念されます。特に、世界人口が増加して食糧の需要が高まる中で、ヨ−ロッパ・ロシア平原、東アジア、北米などの穀倉地帯が作物の成育する夏場に乾燥化したり、干ばつなどの異常気象が多発化したりして、食糧生産の障害となることが心配されます。

 海水位の上昇により、海岸線が侵食され、高潮や洪水の被害が増加し、海岸低地の湿地や水田が失われることも大きな問題です。ナイル川やガンジス川の河口のエジプトやバングラディシュ、平均海抜が2m程度しかない珊瑚礁の島々からなるモルジブ、海抜0m以下に多くの国土を持つオランダなどの国々は海水位の上昇に対して特に脆弱で、大きな被害が及ぶことが心配されています。マラリアやデング熱などの熱帯感染病が温帯域にまで蔓延する危険性も大きいことが指摘されています。

対策は、新技術の創成がキー

 現在、人類はその使用するエネルギ−の90%近くを石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料に依存しています。ご存知のように、この化石燃料が温室効果ガスを生み出しているのです。21世紀にはエネルギ−需要はさらに増加することは必至の情勢ですが、現状では化石燃料の投入でこの需要に応えるしかありません。

 このような状況の中で、化石燃料の使用を抑制し、温室効果ガスの排出を削減することは、決して容易なことではありません。この困難を克服するためには、何よりも、エネルギ−利用の高効率化、温室効果ガスの防除、再生可能な代替エネルギ−などに関する科学技術の飛躍的な発展が求められます。

 東北大学では、この観点から、直流送電による送電効率の飛躍的向上、地熱を利用する高温岩体発電、石炭の高精能エネルギ−への転換、二酸化炭素の固定・除去などの多様な新技術の創成が進められています。