東北大学震災復興レポート「東北大震災と東北大学の新たなる挑戦 ~Brand New Tohoku University~」

学生・教職員が一丸となった
復旧・復興活動と・被災地域へのボランティア活動を展開

  2011年3月11日に発生しました東日本大震災により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。また、被災地で救援活動、復興支援に精励されている皆様に敬意と感謝を申し上げます。  今回の地震は、マグニチュード9.0、最大震度7を記録する観測史上最大級のもので、津波によって甚大な被害をもたらしました。幸いなことに、本学キャンパス内では安全が確保され人的被害はありませんでしたが、自宅等で在校生2名と今春入学予定の学生1名の前途ある尊い命を失いました。家族や自宅を失った学生、教職員も少なくありません。また、人的被害こそなかったものの物的被害は大きく、理工系の学部等がある青葉山キャンパスを中心に施設や設備が損壊・損傷し、総額約800億円(平成23年5月時点)にも上る被害を受けて本学の教育・研究基盤に大きな傷跡を残しました(写真1)。  本学の教職員は地震発生直後から、交通機能が麻痺し、食料や水など日常生活物資も事欠く状況にもかかわらず、一丸となって学生の安否確認と大学機能の復旧作業にあたり、さらには本学の持つ機能を活かして被災地での医療活動や身元確認、あるいは放射線モニタリング、塩害調査など様々な災害救援活動に奮闘してくれました。その活動は3ヶ月以上経た今日でも変化するニーズに即応しながら続けられています。  学生諸君においても、散乱した附属図書館の書架整理や研究室の後片付けなど大学の復旧活動を支えてくれるとともに、少しでも被災された方々のお役に立ちたいとの思いで被災が甚大な沿岸地域等でボランティア活動を展開しています。活動は学内に深く浸透し、1,000名を超えるボランティア組織が誕生するなど、その頑張りぶりには目を見張るものがあり非常に頼もしさを感じています。  教職員と学生のこのような献身的な活動に改めて感謝するとともに、総長として大いに誇りを抱かざるを得ません。そして私たちを気遣い、物心両面にわたって国内外の多くの皆様から温かいお見舞いを頂戴いたしました。皆様方からお寄せいただいた心強い激励に、どれほど勇気づけられ励まされたか知れません。この場をお借りして心より厚く御礼申し上げます。  こうした多くの皆様方からの温かいご支援と本学関係者の懸命な努力により、おかげさまで今日まで復旧活動は順調に進み、5月6日には学部生2,487名、大学院生2,598名の新入生を迎えて新たな学年期をスタートさせることができました(写真2)。研究活動についても、改築や全面改修が必要な施設が数棟あるなど活動が一部制限されている研究室もありますが、本学の機能回復は着実に進んでいます。ただしこの歩みは、単に原状回復という復旧に終始するのではなく、復興・新生へと更なる発展に繋げていかなければならないと強く思っています。

受精卵をつくるために顕微操作装置を駆使しているエンブリオロジスト
写真1

復興・地域再生に貢献する「東北大学災害復興新生研究機構」の創設

  今回の東日本大震災は、地震と津波に加えて原発事故や電力不足などが重なった複合的な災害となりました。いずれの災害においても本学は被災100㎞圏内に位置して、本学の教職員と学生は自らが被災するとともに、被災地の救援、応援活動を通じて震災を肌身で体験しています。望むと望まないにかかわらず、歴史上かつてない世界的大災害を現場体験した唯一無二の総合大学となったわけです。この経験を人類社会の発展に役立てることこそが、今の本学の責務ではないかと考えております。
  東北大学は1907年(明治40年)の建学以来、「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神を基に、研究の成果を人類社会が直面する諸問題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の実現に貢献してきました。その歴史は、東北大学に関わる人々のたゆまぬ挑戦の歴史でもあります。
  東北大学が培ってきた不撓不屈の精神と英知を結集してこの国難に立ち向かい、新たな価値創造で次世代のために人と自然が共存し得る、安全・安心な社会づくりに邁進していくことを通じて、地域、日本、そして人類社会の新生に貢献していく決意です。
  その第一歩として全学的組織「東北大学災害復興新生研究機構」をこのたび創設しました(図1)。現在この研究機構を中心に、政府や自治体と密接に連携しながら東日本大震災による復興・地域再生を先導する研究・教育・社会貢献活動に戦略的・組織的に鋭意取り組んでいます。今後はこの研究機構の中に、今回の大震災からの東北、日本の復興・再生に留まらず、起こり得るあらゆる自然災害に関する防災科学の国際学術研究拠点(「災害科学国際研究所(仮称)」)の創設などを検討しており、先導的な研究の推進と世界で活躍できる指導的人材の育成に努めていきたいと考えています。
  現代社会はその変化が速くかつ不連続であり、これまでの想定を覆すような事態が次々と起こる予測困難な時代です。地球温暖化に伴う気候変動など自然破壊現象が相次ぎ、医療問題、エネルギー問題、食糧問題、貧困問題など人間の生存と尊厳を揺るがす深刻な事態に直面しており、政治、経済、産業のいずれにおいても先行き不透明なまま大きく揺れ動いています。そして今回の大震災の悲惨な現実を直視したとき、大学にかかわるすべての人が、「想定外」を専門家の責任解除とすることなく、その責務としてこの不条理を克服する答えを示さなければならないことを改めて痛感しました。大震災の状況に対する献身的な貢献活動と同時に、地域社会の復旧、復興、そして人類社会の持続的発展に向けて、悲しみを希望の光に変える活動に総力を挙げて取り組んでまいります。今後とも皆様のご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。

社会人大学院生も参加した研究室のイモ煮会
写真2
社会人大学院生も参加した研究室のイモ煮会
図1

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