特集 地球環境を考える

温暖化を防ぐクリーンエネルギー

  グローバル二酸化炭素リサイクル

橋 本 功 二=文
text by Koji Hashimoto


 昨年の京都会議に続いて、11月2日からアルゼンチンのブエノスアイレスで、地球温暖化防止対策を決める国連気候変動枠組条約第4回締約国会議が行われました。そこでは、二酸化炭素の放出権の売買が真剣に議論されました。
 東北大学金属材料研究所屋上には、地球温暖化を防ぎ、豊富にエネルギーを供給できる夢のクリーンエネルギーシステムのミニチュアが動いています。

温室効果ガスを
減らす難しさ

 左の図は、世界の地域ごとの二酸化炭素放出量のこれまでの推移と今後の見通しを炭素の重さで表したアメリカ政府機関の最新のデータです。
 1990年には炭素の重さで約60億トンでしたが、2015年にはその1.6倍以上97億トンにもなると予想されています。特に、1990年までは発展途上国の放出量は世界の4分の1程度でしたが、2015年には半分に近づきます。このことからも分かるように、二酸化炭素の放出量は経済活動と共に増大します。それだけに、発展途上国に、二酸化炭素の放出量を増やすような経済活動の発展をやめるようにと求めるわけにはいきません。
 しかし、国連の気候変動に関する政府間パネルは、大気中の温室効果ガスの濃度を1990年の水準に保つためには、二酸化炭素などの温室効果ガスの人為的放出を60%減らす必要があると、1990年にすでにいっています。
 このように考えると、エネルギーの効率的利用や省エネルギーの努力だけではなく、世界の二酸化炭素放出量の半分以上を回収して処理する抜本的解決法が必要になります。

夢のクリーン
エネルギーシステム

 グローバル(地球規模の)二酸化炭素リサイクルは、煙突から回収した二酸化炭素を再びエネルギーに変えて、使い続けるものです。これは、地球温暖化防止の究極の解決法です。増え続ける二酸化炭素は回収して処理しなければなりませんが、二酸化炭素を出しながら発電した電気を使って二酸化炭素を処理するのでは、発電した以上に電気を使ってしまいます。そこで、砂漠にそそぐだけで、全く使われていない太陽エネルギーを全てのエネルギーの源として使うのがグローバル二酸化炭素リサイクルです。
 必要な電気は全て砂漠に置かれた太陽電池で発電します。電気は遠くまで送れませんので、この電気を使って、砂漠の近くの海岸で海水を電気分解して水素をつくります。水素もどこでもすぐに使える燃料ではありませんから、この水素と二酸化炭素から、メタンという現在日本の都市ガスの90%を占める大切な燃料を作ります。このメタンを液化してタンカーで送り、日本のようなエネルギー消費地で燃料として使い、出てくる二酸化炭素を煙突から集めて液化してタンカーで送り返します。こうして、二酸化炭素は大気には放出されず、砂漠の太陽エネルギーを遠く離れたエネルギー消費地でメタンという使い慣れた燃料として使い続けることになります。このシステムは、いわば地球温暖化の原因となる二酸化炭素を回収しつつ、エネルギーを安定供給できるクリーンエネルギーシステムといえます。

実証プラントの
あらまし

 このことを実際に示した地球のミニチュアが、写真のように、東北大学金属材料研究所の屋上にできています。砂漠の太陽電池、砂漠最寄りの海岸で海水の電気分解によって水素を作る装置とメタンを水素と二酸化炭素から作る装置があり、メタンを日本に送って燃やして二酸化炭素を回収して送り返すようになっています。このシステムを働かせるために不可欠なものは、海水を電気分解して水素と酸素だけを出す二種類の電極と、水素と二酸化炭素からメタンを作るのに必要な触媒です。これをみな東北大学金属材料研究所で創り出すことができたので、グローバル二酸化炭素リサイクルを実行できることになりました。
 メタン製造にはアモルファス合金から作った触媒が最も高性能です。この触媒の入った筒に、二酸化炭素と水素の混合ガスを大気の圧力のまま上から流すと、下からメタンと水が魔法のように出てきます。海水の電気分解は、これまで工業的に塩素を作るのに行われてきました。しかし、地球温暖化を防止するのに、猛毒の塩素を大気に放出することは許されません。海水を電気分解しても塩素を出さずに酸素を出す電極を創ることが、大変重要な研究でした。これは、資源の豊富なマンガンなどを原料とする電極を創ることで解決しました。海水の電気分解は、二つの電極の間に電気を流して行いますが、酸素を出す電極の相手こそ、必要な水素を作る電極です。水素を作るのには白金の電極が一番電力を使わないことが知られていますが、世界規模の二酸化炭素を処理するのに、資源が少なく高価な白金は使えません。アモルファス・ニッケル合金で白金より高性能な電極を創ることができました。
 このようにして出来上がった装置は、とても簡単でハイテクも要りませんから、どこにでも作ることができ、誰にでも運転できます。

産業化のための
実施試験

 グローバル二酸化炭素リサイクルが産業規模で実施されると、これで作られる液化メタンの輸入価格は、日本における液化天然ガスの輸入価格と競争できるものと予想されます。都市ガスなどに使っている液化天然ガスはほとんどメタンですから、このシステムで作られるメタンがそのまま燃料として使えます。
 グローバル二酸化炭素リサイクルの産業化のために、東北大学金属材料研究所の屋上のプラントの200倍程度のパイロットプラントをエジプトの砂漠とそれに続く海岸に設置し、必要なデータを得ることが望まれています。このプロジェクトの実現のために、筆者の友人で昨年の6月までエジプト政府の科学研究大臣を5年間勤めていた化学者Venice K.Gouda博士をはじめ多くの政治家、科学者、技術者が協力しようと、熱心に努力しています。日本でパイロットプラントを作って持っていけば、エジプトは土地、建物、電気、水、二酸化炭素、その他必要なものと、共同研究の科学者、全ユニットの稼動と保守のための人員を提供することになっています。このプロジェクトは、予算がつけば、5年間程度で終了し、予想される予算は毎年2億円程度です。
 産業として始めるには、最初は、二酸化炭素を出す産業施設と砂漠と海が1カ所にあって、原料の輸送に費用がいらないエジプトなどで行うのが経済的です。一度産業としてプラントが活動し始めると技術は格段に進歩し、日本で二酸化炭素を集めて持っていっても経済的に成り立つところまでいくでしょう。



はしもと こうじ
1935年生まれ
東北大学金属材料研究所教授
専門:金属表面化学