シリーズ”住環境を考える
住環境の価値を測定する
松田 安昌=文
text by Yasumasa Matsuda

客観的に価値を知るための方法

 本稿では住環境の価値を測定する方法を紹介します。住環境とは静かさ、空気の良さ、公園や緑地の存在、学校からの距離、都心からの距離、最寄り駅からの距離、公共施設や病院からの距離などを言います。私たちは住環境を重視して住居を選びますが、住環境の良さをどのように評価しているでしょうか。服や食べ物、または趣味で使う遊び道具でも全ての商品は値段がつけられ、その値段を見て私たちは商品の価値を数字で評価することができます。しかし住環境には値段がつけられるようなものではないために、しばしば主観的な評価をしてしまいます。住環境の価値を客観的に知るためには、定量的に測定する方法を見つけなければなりません。

 そこで地価に目を向けてみましょう。地価には住環境の良し悪しが反映されているはずです。住環境の良い場所では地価が高くなり、住環境の悪い場所では地価が下がります。したがって住環境の良し悪しが地価の高低にどのように関係しているかを調べることで住環境の価値を表すことができます。このように地価の高低によって住環境の価値を定量化する方法をヘドニックアプローチとよびます。

ヘドニックアプローチを使った測定法

 実際にヘドニックアプローチを使って住環境の価値を測定した結果を紹介しましょう。

 図は一平米あたりの公示地価が公表されている関東地方の住宅地5573地点の場所を記したものです。公示地価とは国土交通省が毎年基準地点の地価を調査し発表したものです。この5573地点のそれぞれに対して地価と住環境を調査します。住環境として、山手線ターミナル駅から電車でその地点までいくのにかかる時間距離、最寄り駅からの距離、その地点から半径50m以内、50m以上100m以内、100m以上150m以内、150m以上200m以内に存在する商業施設面積、公園緑地面積を対象にしました。この5573個のデータセットをもとに住環境の価値を測定した結果が表にあります。
 半径50m以内と150m以上離れている商業施設の価値が高く評価されている点が興味を誘います。商業施設があまり近すぎるよりある程度離れている方が良いと考える人があるからでありましょう。また、公園、緑地面積がマイナスに評価されていることを不思議に感じるかもしれませんが、公園、緑地が多いところは駅や商業施設などの利便施設から遠くなることが多く不便になる傾向があるので、低く評価されていると思われます。

ヘドニックアプローチは住環境を守る

 地価を通して住環境の価値を数字で評価するヘドニックアプローチを紹介しました。住環境を守るためにはまず客観的に価値を知ることから始めなければなりません。主観的な評価だけに頼れば、住環境を守る計画が費用対効果を無視したものになりかねないからです。費用対効果とはコストパフォーマンスともいい、これを無視すれば重要でないものに過大な費用を投じたり、貴重なものが傷んでいても費用を惜しんで放置したりすることで結果的に住環境を損なってしまいます。ヘドニックアプローチは未来の住環境を守り豊かな社会を築くために欠かせないものと私は考えています。

関東地方における公示地価の評価地点


松田 安昌 まつだ やすまさ
1969年生まれ
東北大学大学院経済学研究科 准教授
専門:統計学


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