いろいろな政治学の可能性
「オーラル・ヒストリーと公共政策ワークショップ」


牧原 出=文
text by Izuru Makihara
 
 

 新聞などで「官僚支配」が批判されますが、現代政治において官僚の役割はきわめて重要です。また、映画『県庁の星』でもそうですが、福祉、教育、まちづくりなど地方自治体の仕事の多くは、議員ではなく、県庁・市役所職員によって立案され、実施されています。私の専攻する行政学は政治学の一分野ですが、こうした問題を、行政の実態に即して分析する学問です。
 ところが行政の重要性は現代に限りません。日本の中央省庁は「省」という呼び名を持ち、その長は「大臣」と呼ばれています。これは明治どころか、律令国家にさかのぼる組織と職名です。このように、行政は歴史を背負って成立しているのです。そこで、私は、歴史的観点から、戦後を中心に行政の政治的役割を解明する研究をつづけてきました。十年来の研究の成果は、『内閣政治と「大蔵省支配」』(中央公論新社)という本にまとめたところです。こうした研究を行おうと思っても官僚についてはなかなか資料が無く、当事者に面会してインタビューを行うという作業が欠かせません。これを歴史研究では「オーラル・ヒストリー」と呼びます。

【教室風景】

 現在は、かつて官界で指導的役割を果たした内閣法制局長官へインタビューするプロジェクトや、劇作家として著名でありかつ政府の政治顧問的役割を果たした文化人へのプロジェクトなどに参加しています。こうした人たちは、これまで知られていない戦後政治の実態を熟知しているため、本邦初公開とでもいうべき話題が多く、インタビューは大変スリリングです。また、公人として責任のある地位にいる人の生き方・考え方には、自ずから学ぶところが多く、彼等の孫くらいの世代に当たる私にとっては大いに人生勉強をさせてもらっているように思います。市民一人一人が政治に関心を持つことは、これからますます重要になると思いますが、政治的決断がどのような発想の下でどのようになされたかを当事者の回顧を通じて考えることは、政治を理解する際に大きな手助けになるのではないでしょうか。

【自治体でのヒアリング】

 それから、教育面では、目下2004年に開校した東北大学公共政策大学院で行政の現場の問題について授業を行い、修士論文に当たるペーパーの作成を指導しています。
 公共政策大学院は、国家公務員・地方公務員などの政策実務家を養成するための修士2年間の大学院です。東北大学ならではの特徴は、法学部の教員と中央省庁から派遣を受けた実務家教員とが協力して、現場のニーズに即したカリキュラムを作り上げたことにあります。授業の中心は、まちづくり、環境問題、地域金融、被災者支援などのさまざまな分野における問題を調査し、解決策を立案・提言する「公共政策ワークショップ」という科目です。学部卒業学生にとっては大学院にいながら行政の現場に立つことができますし、自治体職員にとっては、中央省庁の実務家と議論しながら政策立案とは何かを考え直す貴重な機会になります。
 公共政策大学院は東京大学、京都大学などいくつかの大学で開校されていますが、東北大学公共政策大学院では、設立準備時から研究者と実務家とが大いに議論をし、共同でワークショップや講義を行っています。これほど行政のニーズと実態に即したカリキュラムを作り上げたところはないと思います。また、学生数は1・2年併せて60名と少ないので、教員と学生とは一つのコミュニティを作っているといってもよいでしょう。詳しくはHPを参照して頂ければと思います。  今では毎年3月になると、学生が官公庁をはじめ各界へ巣立っていくようになりました。大学院の設立準備から関わってきた私としては大変感慨深い思いで、年度の終わりを迎えています。

まきはら いづる

1967年生まれ
東北大学法学部教授
専門:行政学
■東北大学公共政策大学院
http://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp

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