特集 地球環境を考える




齋 藤 武 雄=文
text by Takeo S.Saitoh











 今年7月4日群馬県秦名町で気温43℃を記録したことは、覚えておられると思います。この日だけで、全国で2人が死亡し、167人が熱射病などで病院に運ばれました。この日は、東京でも、36.1℃を記録するなど、平年を10℃も上回る暑さでした。東京では平成4年8月3日39.1℃の過去最高気温を記録しています。このように、近年都市における人間活動の影響、特に車や空調による集中的な排熱によって都市の気温が上昇しているのです。これを都市温暖化またはヒートアイランドと呼んでいます。この稿では、地球温暖化と並んで重要なもう一つの温暖化問題である都市温暖化(ヒートアイランド)についてお話しましょう。


世界第5位に入賞した当研究室のスペースサーファー1号。 100km1時間51分44秒のタイムをマーク、燃費は4000km/l

ヒートアイランドはなぜおこるか

 ヒートアイランドがどんな現象で、なぜ起きるのか簡単に説明してみましょう。
 ご存知のとおり、現代の都市たとえば東京は、昼間人口は、1400万人を超え、超高層ビルをはじめとする建物が密集しています。また、車の数も460万台に達し、慢性的な交通渋滞を引き起こしています。夏、冬などの季節を問わず、暖冷房・給湯・照明・輸送など都市域では莫大なエネルギーを消費しています。東京23区のエネルギー消費密度は、平均で1m2あたり、約40Wに達しており、千代田区などでは、局所的には、140Wを超えています。すなわち23区では、40Wの電球を1m2ごとに点灯するのと同じエネルギーを常時使っていることになります。東京の平均日射量は、1m2あたり80Wぐらいですから、千代田区などでは、この1.5倍にも達し、まさに都市は、”人工太陽”と呼べるのです。
 また、都市はビルや道路など人工建造物で覆われているため、日中、太陽のエネルギーを吸収しやすく、熱せられ、温度が上昇します。これが夜間、都市大気へと放出されます。
 このように、都市では、面積あたりエネルギーの消費が極めて大きいことと、建物などの建造物の蓄熱効果のため大気が熱せられ、結果として周囲の郊外に較べて気温の上昇を招きます。等温線を描くと、ちょうど島の等高線の様に現れます。
 ヒートアイランドの原因としては、前記2つのほか、都市域で蒸発量が減少すること、建物が林立するため風が弱まること、水蒸気などの温室効果などもあげられます。

温暖化している東京
 1992年3月14日に、筆者の研究室が行った移動観測による東京のヒートアイランドの実態を紹介しましょう。

 車3台で都内約360箇所の気温を測定して、コンピュータに入力して作成したのが、図1です。この図から現在の東京で最も気温の高い場所は新宿で、12.6℃、逆に最も低いところは、八王子あたり(ただし、山岳地帯を除く)で約4℃であることがわかります。八王子は、新宿からJRで33kmしか離れていませんが、気温差は、8.1℃もあります。東京の年平均気温は15.3℃、同じく那覇は22℃ですから、地域差でいえば東京−沖縄間より大きいこととなります。

2031年の東京
 過去10年間の東京の人口は、ほとんど増えていませんが、建物の床面積やエネルギー消費は、かなりの割合で伸びています。現在、超高層ビル地域は新宿、池袋など限られていますが、将来、都市化の進行やインテリジェント化(OA機器などのエネルギー密度の増大ほか)が進めば、純粋なエネルギー消費もさらに伸び、また、建物の容積の密度が増加するため、都市大気中に放出されるエネルギーはかなり増加します。
 そこで大気に放出されるエネルギーの増加のシナリオを作成し、これが現在の5倍となる2031年における東京の夏の夕刻6時のヒートアイランドを予測した結果をお見せしましょう(図2)。
 何と、大手町付近は、43℃を超えてしまうのです。地球上には、フェニックスやダラスなどをあげるまでもなく夏に40℃を超えるところは珍しくありませんが、東京の場合は、少し条件が違います。すなわち湿度が高いのです。したがって、不快指数も大きく、とても人間の住める町ではなくなってしまいます。

ヒートアイランドを防ぐ方法
 以上、ヒートアイランドについて大略を述べてきましたが、それでは、ヒートアイランドを防ぐ手立てはないのでしょうか?防ぐことは極めて難しいことと正直思いますが、以下に方策をあげてみます。
 ヒートアイランドの第一の原因はエネルギーですから、都市でのエネルギー消費を抑えることです。10%や20%減らすというのではなく、抜本的に激減させることが大切です。すなわち私は“10分の1コンセプト”なる説を主張しています。90%減らすのです。
 もう一つは「大気中に放出しない」ことです。現在は全て大気中に出しています。これを地中に棄てる(蓄える)か、地中パイプを通して、都市の外に運び出すのです。筆者が提案しているボアホールシステムは、100mの鉛直パイプを多数用いて地中に熱を棄てる“熱の墓場”構想です。
 先日、秋田県大潟村で行われましたワールドソーラーバイシクルレースにおいて、当研究室のスペースサーファーI号が世界5位に入賞しました(写真)。この車は、規定範囲内の容量の蓄電池と太陽電池を搭載した3輪の電気自動車で、100kmをいかに速く走り切るかというレースです。スペースサーファーI号は、1時間51分44秒のタイムをマークしました。また、燃費は、4000km/lです。もちろん、車体は50kgと軽く実用車ではありませんが、将来の車は、少なくとも1lのガソリンで100kmは走る車ができそうです。
 このように、21世紀は、革新的な技術を創成し導入していくことが求められます。



さいとう たけお
1942年11月生まれ
東北大学大学院工学研究科教授
専門:エネルギー・環境学、都市温暖化、エネルギー貯蔵、熱工学