シリーズ 代替エネルギー1
燃料電池が作る未来
伊藤 隆=文
text by Takashi Itoh


はじめに
 新エネルギー源としての燃料電池が、昨今の新聞をにぎわしています。現代では石油枯渇が現実味を帯びだし、一方、地球温暖化の問題は深刻さを増しています。このような現代において持続可能な発展を果たす新しいエネルギー源として「水素」が最も有望であると言われています。
 この水素を使った発電装置が「燃料電池」です。水素を燃料とし、排出物は水だけのクリーンな発電システムです。究極の水素社会とは、自然エネルギーを用い水素を取り出し、貯蔵しておいた水素を家庭や自動車、そして携帯機器の電源である燃料電池に送り込むことにより成り立つエネルギー社会です。本稿では、現在の燃料電池開発状況と燃料電池が作る未来について紹介します。

燃料電池
 燃料電池を初めて考案したのは、イギリスのグローブであると言われています。1839年に、水素と酸素の反応により水を生成させ、その反応エネルギーに相当する起電力を得ることに成功しました。これは、燃料電池の働きそのものです。現在開発が進んでいる燃料電池の原型が、今から約170年位前に研究されていたことは驚くべきことです。その後1968年にアポロ有人宇宙船に燃料電池が搭載され、燃料電池の有用性が証明されました。

固体高分子型燃料電池の概略図
(アノードより供給する水素が白金微粒子上でH+となり、
電解質中を通りカソードにて酸素と反応し水を生成する。)

 燃料電池にはいろいろな種類があり、反応温度や電解質の違いにより分類することができます。特に脚光を浴びているのは固体高分子型燃料電池(PEFC)と呼ばれるもので、室温から100度程度の運転温度、電解質には水素イオン交換膜を用いた燃料電池です。簡単な概略図を示します。
 PEFCの特徴として、(1)発電効率が高く、高電流密度なため、小型軽量化が可能、(2)比較的低温で動作するため、常温で起動でき、起動時間が短く取り扱いが容易、(3)電解質が固体の高分子のためメンテナンスが容易、などをあげることができます。
 このような特徴を生かし、PEFCは家庭用定置型電源や自動車用移動電源、携帯機器用電源として最も期待されている燃料電池です。燃料電池の理論エネルギー効率は80%以上と高効率ですが、さまざまな損失が発生するため、実際の装置ではこの半分程度の性能を発揮することができます。

今後の展開
 現在、筆者の研究グループでは、高性能・長寿命・低コストに根ざした燃料電池構成要素に関する材料開発を行っております。特に、反応部にガスを供給するセパレータ材料の研究を展開しております。このセパレータ材は高導電率・高耐食性が必要であり、現在は炭素材料が用いられています。これをさらに発展させた新規なコンセプトに基づく研究開発に力点を置いております。これまで、研究室レベルにて良い性能が得られているだけに、この研究開発は将来の実用化に際し、低コスト化、高性能化に大きく貢献できると考えております。
 東北大学内においても多くの研究グループが、材料、膜、触媒など燃料電池発電技術に関連した研究開発を行っております。現在、燃料電池は実用化一歩手前の段階にあるといわれています。燃料電池自動車、家庭用コージェネレーションシステムが出現し、少しずつ私たちの生活に溶け込み始めようとしています。一方で、「社会で本当に使える技術」になるまでに克服しなければならない課題が山積みされていることも事実です。例えば、小型化はできるか?低コスト化は達成できるか?水素製造はどうするか?インフラは構築できるか?など考え始めるときりがありません。
 「研究室レベルの研究」から「実用化直前のレベルの研究開発」にまで一気に階段を駆け上ってきた燃料電池発電技術は、今後さらに研究開発のスピードを加速していくと思われます。近い将来、環境にやさしく、高エネルギー効率な燃料電池が出現し水素エネルギー社会が実現されることにより、より快適な私たちの生活が訪れることでしょう。

 


いとう たかし

1968年生まれ
現職:東北大学学際科学国際高等研究センター
   助教授
専門:電気化学、表面界面物性

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