環境科学と地域連携
新妻 弘明=文
text by Hiroaki Niitsuma

東北地域は、
未来社会を考える例題の宝庫

 東北大学は2003年に、新しい大学院である環境科学研究科を設立しました。そこでは、環境科学の先端研究や教育にあわせ、地域連携や産官学連携を重要な活動の柱として位置づけ、いろいろな活動を行っています。
 環境科学では地域との連携が特に重要です。なぜなら、環境問題は行政、産業界、研究者、技術者、一般市民、子供たちまでが当事者であり、その対策や行動が具体的に地域社会に根づかなければ意味がないからです。また、それらは、地域々々の伝統・文化、地理的条件に根ざしたものでなければ長続きしません。
 私たちは、アフリカ、中国、モンゴルなど、世界中の地域を研究対象にしていますが、なかでも、工業先進国である日本、とりわけ、自然と共生してきた伝統と文化の残る東北地域は、持続可能な未来社会を考える上で重要な例題の宝庫です。私たちは地域との連携によって問題を掘り下げ、実践的な環境科学をつくりあげていかなければならないと考えています。
 それでは、私たちのいくつかの地域連携活動を紹介しましょう。

自治体との連携活動や
産官学共同プロジェクトを推進

 環境科学研究科では、2004年に宮城県と協力協定を締結し、「環境とエネルギー」をキーワードにした連携活動を行っています。そこでは、学生も参加した地域の政策立案や事業実施のための勉強会の開催、各種情報の相互提供、講師、委員などの相互派遣、一般市民向けの環境フォーラムや県民大学の共催、技術支援・相談、共同研究などが行われています。
 また、仙台市とは、国際知的産業特区事業の一つとして、下水処理場を利用した太陽光利用水素生産システムの開発などを行っています。さらに、東北経済産業局とは、循環型社会対応産業クラスター事業などで連携をはかっています。このほか、個々の研究者レベルでも、他の自治体や地域の企業との連携が行われています。

下水処理場を利用した太陽光利用水素生産システムの実験モデル(仙台市国際知的産業特区事業)

宮城県丸森町舘矢間小学校で開催された出前授業
(平成17年6月)

 2005年度から、国の科学技術振興調整費を得て「地圏環境インフォーマティックスのシステム開発と全国展開」という産官学共同プロジェクトがスタートしました。本プロジェクトは、先端的な技術を駆使して、土壌や地下水、表層地質、生態系などの環境情報を統合化した情報システムを作り上げ、地域のリスク評価、環境管理、土壌汚染対策などに役立てようとするものです。本プロジェクトは、産業技術総合研究所、宮城県、一般企業との連携により行われています。

エネルギー・環境教育にも尽力
 エネルギー・環境教育も、地域と連携して行うべき重要事項です。当研究科では宮城教育大学と共同で、(財)社会経済生産性本部の事業委託を受け、エネルギー環境教育拠点校として「エネルギー環境教育研究会」を組織し、教育プログラムの開発、教育実践支援、出前授業、校外授業の開催などを行っています。本研究会には、両大学のほか、宮城県、仙台市、東北経済産業局、東北電力、宮城県内の小中学校などからメンバーが参加しています。2005年度の出前授業は六月に丸森町舘矢間小学校で行われました。校外授業では、舘矢間小学校のほか仙台市桜丘中学校が本学を訪れています。
 また、当研究科では、社会人のリカレント教育のために広く学生を受け入れており、現在54名もの社会人大学院学生が在籍しています。
 このほか環境科学研究科では、市民への啓発活動として、いろいろなイベントを定期的に開催しています。詳しくは当研究科のホームページをご覧ください。

 

にいつま ひろあき

1947年生まれ
現職:東北大学大学院環境科学研究科 教授
専門:エネルギー・環境学
http://www.kankyo.tohoku.ac.jp/
(環境科学研究科)

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