組織としての産学連携・地域連携
 
活動の現場から
長谷川 史彦=文
text by Fumihiko Hasegawa

 東北大学が法人化後の目標の中心のひとつに掲げる「地域に開かれた大学」の視点から、大学組織として行っているいくつかの「地域と大学」の連携事例をご紹介いたします。
 昨年、産業界からの呼びかけにより仙台地域のラウンドテーブルが設置されました。この仕組みは、東北経済連合会、宮城県、仙台市、そして東北大学のそれぞれの代表である会長、知事、市長、総長がひとつのテーブルを囲んで、地域が協力して取り組む課題について意見交換を行うものです。地域のために有益なことを成し遂げるために、機を逸せずに組織的能力を出し合うためにはそれぞれの組織のトップの判断が重要です。
 大学から自治体への協力として、従来は学識経験者として県や市の作る素案に意見を述べてきました。しかし、産業振興などの連携では立案の段階から実行までの具体的な計画を一緒になって作り、結果に対してより強い責任を持つことが大切です。

 2003年12月に開かれた第1回会合では、東北大学総長から提案した自治体と大学の間での人事交流制度が県知事と市長から即座にご賛同いただき、異例の早さで機能し始めています。2004年3月26日に協定書を締結し、県に2名、市に3名の東北大学教員がそれぞれの職務で活動を始めています。この新制度を新産業の創出、企業誘致の推進の他、産官学・地域連携を担う人材育成にも役立てたいと思います。
 つぎに、東北大学が開発する技術は概ね総合力に勝る大企業に渡っています。東北大学発の先端技術を「地域企業が核となり異業種連合で受け止めて産業化する」という新たな仕組みを「仙台モデル(一ノ蔵方式)」と呼んで、2002年9月から東北経済連合会の産学連携マッチング委員会と東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)が協力してプロジェクト作りを進めています。現在、4つのプロジェクトがNICHeや電気通信研究所の技術をもとに立ち上がり、商業化をめざして進行中です。
 また、このような地域連携型の開発プロジェクトを積極的に作る動きと併せて、開発プロジェクトをベンチャー企業として、ハード(育成施設)とソフト(活動資金と専門家の支援)の両面から育成支援する仕組みが仙台地域に用意されました。青葉山の金属博物館を改修した育成施設と地域資金を30億円集めた投資ファンドが、それぞれ技術と経営の専門家集団によって2004年4月から運営されています。
 これらも地域と大学が協力して行った活動です。東北地域ではベンチャー企業が育ちにくいといわれていますが、このような積極的な活動が近い将来に必ず実を結ぶものと思います。
 最後はこれから始まる内容です。東北大学は、計画中の青葉山新キャンパスでは理系と文系の分野融合的な新しい学問研究を可能とするとともに、隣接するサイエンスパークを設立し、ベンチャー企業や民間研究所の誘致などを図りたいと考えています。卒業生の地元への定着、研究者の循環育成システムを作ることは大学の発展にも重要です。地域経済発展のために人材と技術のベース基地を地域と共に作っていきたいと考えています。地域経済界、自治体と東北大学が一生懸命に育ててきた現在の良好な関係をもとに、是非ともこの地域の一大プロジェクトを成し遂げたいと思います。地域の皆様の幅広いご協力をお願いいたします。

 

はせがわ ふみひこ

1957年生まれ
現職:東北大学未来科学技術共同研究センター 副センター長、助教授
   研究推進・知的財産本部 研究推進室長
専門:研究企画、知的財産、環境・素材工学
http://www.niche.tohoku.ac.jp/

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