体温リズムを管理して快適な睡眠を


山本 光璋=文
text by Mitsuaki Yamamoto

 私達日本人はいま、5人に1人が自分の睡眠に不満を持っていると言われています。睡眠に不満があるということは、日中眠いことを意味し、思考力が低下します。どうしたら、快眠を得て快適な1日を送ることができるようになるでしょうか。その秘訣は睡眠と密接な関係にある体温リズムの自己管理思想にあります。つまり、24時間のリズムでメリハリのある生活をおくることによって、自分自身で体温リズムを管理することができるようになるのです。健康体の体温は目覚めの前から上がり始め、日中は高温となり、行動に依存して上下動します。夕方に至ってピークとなり、その後、急降下し、眠りとともにさらに下がり、皿型の谷を通り過ぎてから覚醒となります。メリハリのある生活とは、この体温リズムを乱さないように、かつ振幅を大きく強調するように、行動し休息し睡眠することなのです。それによって快眠が得られます。体温リズムの管理上大切なことは、次の3点に要約されます。
▼ 覚醒後はできるだけ陽の光にあたり、朝食をとり、体温上昇を助けるよう活発に、かつ、できるだけ明るいところで行動する。
▼ 昼食後に強い眠気を感じるのは、食事とは無関係にやってくる自然のリズムであることが証明されている。そのリズムに合わせて仮眠を取れば眠気は解消し、午後の覚醒感が高まる。ただし、長すぎる仮眠は寝ぼけを引きずるので禁物である。若者では15分以内、高齢者では30分内外が適当である。
▼ 早寝の人は、体温が最大になる夕方、散歩や軽い運動などにより体温を上げることが効果的である。逆に夕方の仮眠は禁物である。そのあと夜にかけては体温の降下を助けるように行動を控えめにするとともに、照明は明るくし過ぎないことが大切である。夜更かし型の若者では夜9時頃に体温が最高になるが、その時間帯に合わせて運動や、入浴をすれば、睡眠促進効果がある。

 メリハリのある生活をデザインするのは自分自身です。結果として、ベッドに入ったら短時間で深い眠りに入り、眠りが持続するようになれば理想的です。それは、良質な睡眠であるノンレム睡眠の段階3、4(徐波睡眠)が出ている証拠であるからです(図参照)。徐波睡眠は年を取ると段々出にくくなると言われていますが、眠りの最初の3時間以内に集中的に現れる性質がありますので、その時間帯の眠りを逃さないことが、快眠と快適な1日を保証し、睡眠健康すなわち脳の健康をもたらす秘訣であります。


図の説明
 熟睡している健康体と中途覚醒の多い非健康体のヒプノグラム(睡眠経過図)の比較:健康体では、深い眠りであるノンレム睡眠段階3、4(徐波睡眠)が前半に集中し、後半には長いレム睡眠が見られる。中途覚醒もなく快眠型のヒプノグラムを示している。 非健康体では、徐波睡眠はほとんど見られず、中途覚醒が頻繁に見られ快眠型とはいえない。メリハリのある日中の行動により中途覚醒の減ることが期待される。W:覚醒、R:レム睡眠、1,2,3,4:ノンレム睡眠段階

睡眠について
 睡眠は本文で述べているように低体温化の過程ですが、ノンレム睡眠とレム睡眠を含んでいます。床に就くとノンレム睡眠段階1,2,3,4と進行し、やがてレム睡眠に至り、再びノンレム睡眠に戻ります。これを4,5回繰り返して朝を迎えますが、この周期はヒトでは約90分と言われています。ノンレム睡眠は大脳皮質を中心とする脳の休息と回復機能を果たしているのに対し、夢見のねむりとも言われるレム睡眠は脳の再活性化機能を果たしていると考えられています。両者の割合は年齢に関係なく4対1と言われ、その機能からして両方とも重要な眠りといえましょう。
 寝つきが良く、中途覚醒が無く、爽快感とともに目覚める眠りは良質な眠りと言えます。そのとき、ノンレム睡眠の段階3,4の有無が鍵でありますが、めりはりのある生活を送ることによりそれは容易に実現されるのです。

やまもと みつあき

1940年生まれ
現職:東北大学大学院
   情報科学研究科教授
専門:生体情報学、情報工学
関連ホームページ:
http://www.yamamoto.ecei.
tohoku.ac.jp/mituaki/index-j.html

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